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今でこそ、イリスは家に戻れるまで回復したが、入院中は様々な症状に苦しむ姿に、何度も胸が裂けそうになった。このまま命の灯が、消えてしまうのではないかと。
いや、それ以前に、アークが神殿でイリスを助け出すのが、少しでも遅れていたら。そもそも、イリスがたった一人で神殿を浄化して回っていたことに、気付けなかったら。
今、こうしてイリスを抱き締めることは、出来なかったかもしれない。
「ねぇ、アーク、どうしたの?」
戸惑いながら、背に腕を回してくるイリスに、アークは。
「…退院したら番になるって、約束したよな?」
「!」
腕の中で、イリスが頬を真っ赤に染める。
アークは腕を緩めると、その頬を優しく撫でた。
「俺はこれからもずっと、イリスの傍に居る。だからイリスも、どこにもいかないでくれ」
「…うん」
頷き、イリスはそっと目を閉じる。
アークからの深い口付けを受け入れてから――イリスは、その腕に身を委ねた。
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それからイリスは神殿守護職に復帰し、アークも騎士として、ますます多忙な日々を送っている。
女神祭の前からはほんの少し、そして大きく変わった日常。朝、目が覚めるとあなたがいて、一緒にご飯を食べて、何でもない話をして。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「うん!行ってらっしゃい」
イリスは今日も、仕事へと向かうアークを送り出し、自分も神殿の浄化に向かう。夜になればきっと笑顔で、『ただいま』と言って帰って来てくれる。
――“運命の番”というものが、本当に存在するかは分からない。イリスはただ、願うだけだ。『これから先もずっと、あなたと一緒に居られますように』、と。
その為には、これからもっと頑張らなければ。もっと強くなってアークを助けたいし、もっと優しくなってアークの笑顔を守りたい。
他には何も望まない。ただこの日々が――あなたと支え合って、笑い合って過ごす他愛もない日常が、いつまでも続いていきますように。
イリスは今日も浄化を終えると、祭壇の前で跪く。
そしてそっと、女神に祈りを捧げるのであった。
- END -
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