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終章 約束のその先へ
イリスに退院の許可が出たのは、入院してから10日目のことだった。
ソフィーとの保管庫整理の後も、イリスは施設内で雑用を見つけては、手伝いを買って出ていた。身体をよく動かしたので、体力が戻るのも早かったのかもしれない。
そしてその間、ルシアやハンナ、そして他にもたくさんの天使仲間が、見舞いに来てくれた。
あれほど辛かった“魔力欠乏”の後遺症も今ではすっかり鳴りを潜め、体調はほぼ女神祭の前の状態に戻りつつあった。アークを始め、支えてくれた守衛館の人々や天使界のみんなには、感謝の想いしかない。
天使長カーシャによると、リタ、レイナ、エルダの3人は、花天使の最下級まで降格の上、力が戻るまでは毎日、国民への奉仕活動を義務付けられたそうだ。
他の上位天使からは、天使界からの追放が妥当だとする意見も多かったが、最終的にはカーシャが、3人を天使界に残す判断をした。
天使界から追放したところで、リタたちが悔い改める可能性は極めて低い。それならば1から心を教育しなおし、今度こそ一人前の聖天使に育て上げるのが、天使界として彼女たちを迎え入れた責務だろう、と、カーシャが周りを説得したという。
とは言え、怠惰でプライドの高いリタたちが、この厳しい罰に耐えられるかは分からない。あるいは自ら、天使界を去る選択をすることも十分考えられる。
ここから先は、あの子たちの根性次第ね、と、カーシャは苦笑しながらイリスに報告してくれた。
「うお、懐かしいな、この部屋!あの頃のまんまだ」
イリスの家で、アークはかつて自分が使っていた部屋の扉を開けると、興奮気味にそう呟いた。
「アークが出て行ってからもずーっと、そのまんまにしてあるよ」
「これ、父さんからもらった本だ。失くしたと思ってたけど、こんなところにあったんだな」
アークは本棚から一冊の本を手に取ると、ページをめくりながら目を細める。
イリスが退院するのに合わせて、アークもようやく仕事の休みを取り、荷物をまとめて宿舎を出た。
「アーク、荷物、この辺に置いといていい?」
「ああ、ありがとう」
引っ越し作業はイリスにも手伝ってもらったが、狭い宿舎に置いていた物はほとんどなく、2人いれば運び出すには十分だった。これならすぐに、荷物も片付くだろう。
「アークの部屋は2階だから、やっぱり眺めがいいね」
言いながら、イリスが窓を開けて風を入れる。カーテンが膨らみ、同時にイリスの銀色の髪が、夏の風を受けてさらさらと揺らめいた。
気持ち良さそうに風に吹かれながら、イリスはこのまま、窓の外の大空に飛び立ってしまいそうな。
ふと、そんな錯覚に襲われて、アークは思わず、その細い肩を後ろから抱き締めた。
「アーク…?」
イリスが驚いて振り返ると、アークはそのまま、イリスを胸の中に抱き寄せる。
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