プロローグ

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プロローグ

 階段の最後のステップを踏んで、ふと、疑問がわいてきた。  古びたものではあったが、エレベータは確かにあった。  最上階まで上がるのであれば、当然、それを使うはずなのに、なぜ階段で上ってきたのか。 「一番奥の部屋ですよ。確保できたのは」  先導している隅谷(すみたに)は息も切らしていない様子で、軽い足取りで外廊下を歩いていく。  若いというのが羨ましい。そんな歳になってしまった。  信二は、そんなことを考えながら、隅谷を追う。  外廊下は、暗かった。照明は消えていて、月明りだけがわずかに照らしてくれている。  ほこりまみれの手すりをつかんで、下を覗き込む。街路灯はついているが、このマンションにはどこにも灯りが無く、生活感がまるで感じられなかった。 「電気はちゃんときてるんだろうな? いくらなんでも、電気、水、ガスのライフラインは最低限必要だぞ」  そう言いながら、信二は、エレベータを使わなかった理由がわかった。  このマンションには、電気がきていない。だから、動かないのだ。
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