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27.予定通り
ふむ。予定通りか。
和樹丸はその青年貴族が現れると同時に立ち上がり、そのまま歩いて、葦舟命の隣に行った。
「なに……?」
葦舟命の顔に、その時初めて動揺が浮かんだ。
「審議の場にいるのは、正しく東宮様なり! 葦舟命は偽帝である!!」
青年貴族が朗々と宣言し、そして、歩を進めて色秤殿に近づく。
と、鏑屋を筆頭として、下級役人や下級貴族と見受けられる十人程が白洲に駆け込んでくる。
そして、青年貴族はいつかの桃宮と同じように、建物の階を上り、葦舟命に詰め寄った。
「お久しぶりですね。桃桃お姉様……我が、おねえさま」
一言一言、葦舟命を追い詰めるように言う。
「其方……蔦宮、か?」
その人物がそこにいることが葦舟命は信じられないと、唖然とした表情を浮かべた。
「ええ。あなたに宮を追放された蔦宮ですよ。今、ここに私が登場するとは思っておられなかったでしょう?」
余裕の表情を浮かべる蔦宮。
「何故……お前が現れる!!」
押されるように葦舟命が一歩下がった。蔦宮はさらに一歩踏み込む。
「あなたが宮に注力していてくださってよかった。柴宮雁智伯父さまの監視も緩んでいましたし、思ったより簡単に都に入れましたからね」
言葉を突きつけた。
「蔦宮……何をしに宮に戻った!?」
自分のその問いの答えは簡単に想像がついていたはずだが、それでも葦舟命はそう口にしていた。
「勿論、石を投げられて追い払われた報復をしに」
平然と蔦宮が言い切る。
「和樹丸! この者を捕らえよ! この場に登壇する資格のない宮だ!!」
葦舟命は和樹丸に視線を向けるが、和樹丸は動かず……。
「そうでしょうか? この場にいる資格がないのは……」
蔦宮が言うと同時に、和樹丸が葦舟命の襟を掴んだ。
「樫宮お兄様、でしょう?」
葦舟命の着物の襟がバッと開かれた。
そして現れたのは、男の体だった。
「葦舟命は男である!!」
葦舟命のあらわになった体を貴族たちの方にぐいと向けて、和樹丸は言った。それに重ねて、蔦宮が宣言する。
「樫宮は男帝の息子。母親も男宮の血しか引いておらぬ! 男系男子の帝位継承は認められぬ!」
色秤殿の中に一気に動揺が走った。貴族たちがポカンと口を開けて樫宮を見ている。
「樫宮は双子の妹だった私と入れ替わったのだ! そして男宮とした私を柴宮家に放逐し、自身は帝位継承権のある女宮と偽った!」
蔦宮の堂々とした声が、全てを制して色秤殿の中に広がる。
「これこそが、樫宮が偽帝の証である!!」
「蔦宮、和樹丸! 其方たち手を組んで……!!」
和樹丸に拘束されたまま、樫宮が唸る。
「お兄様。たかだか色が分からぬというだけで、田舎に追われ、監視の元で生きることしかできない私の恨みが分かりますか?
誰も、私のことを気にかけてもくれなかった。お兄様と私の間には優劣はないはずなのに。それなのに、お兄様は私が得るべきものを全て奪い去った!!」
樫宮に蔦宮が詰め寄る。
「蔦宮! このようなことをして、どうするつもりだ!? 今、帝の地位を揺るがせば、宮の力が弱まるだけだ!! それを分かってないとは言わせない!!」
妹に言い募る樫宮。だが、妹は。
「ええ。分かっていますよ。でも、それがなんなのですか?」
蔦宮は、肩をすくめて軽く答えただけだった。
「蔦宮。其方にも理解できるはずだ。宮の威光を取り戻すことこそが、蘆野國を守ることに!」
樫宮が怒りをあらわにする。だが、その怒りは蔦宮には届かない。
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