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「おめでとう!」
翌朝、神社へ報告に行こうと入るなり、翠波さんに大きな拍手で出迎えられた。
「祓い屋試験合格だよ。君は今日から祓い屋協会の一員だ」
「は、はい……?」
私はただ翠波さんに昨日のことを報告しに来ただけなのだが、いつの間にそんなことに。
「君の活躍は祓い屋協会の会員たちが逐一観察していた。昨日祓ったのは怨霊の中でもかなり厄介な部類の物だ。あれを祓えたなら君はもう立派な会員だよ。皆もびっくりしてたよ?」
――祓い屋、あの場に他にもいたの!? じゃあ手伝ってもらうことだってできたのに。
驚いて狐の姿でその辺を飛び回っている陽光を見つめるが、ふいっとそっぽを向かれた。
あいつ、知ってたな!?
翠波さんが一歩近付いてきて私の手を取った。
「嬉しいよ。祓い屋協会の創設者の孫に入ってもらえて」
「……え? 創設したのおばあちゃんなんですか!?」
「うん。君の祖母の死後仮のトップはいるのだけれど、納得がいかない人も多いみたいでね。俺たち祓い屋は跡取りになり得る人材をずっと探してた。君の母親は視える側ですらないようで絶望的だったんだけど、監視させてもらった感じ、君は視える側だった」
ぞぞ、と寒気が走る。
もしかして、私が塾に通っていることを知っていたのも、監視してたから……?
翠波さんは私のことを、私とあの日神社で対面するずっと前から知っていたんだ。
「私に跡取りとかトップとか無理ですよ? やっと祓えたところだし……」
「勿論、もう少し練習を重ねてからにはなるけど、君ならきっと大丈夫だよ」
「で、でも! 私まだ子供だし……っ翠波さんだって私の考えは甘いみたいなこと言ったじゃないですか」
「あれはちょっとした面接みたいなものだよ。祓い屋協会の理念に共感できる人材かどうかチェックさせてもらった」
翠波さんはにやりと笑って言った。翠波は腹黒と言っていた陽光のことを今になって思い出す。
「――祓い屋協会の理念。周りの人を大切にしなさい。自分にできる範囲で人を助けなさい、だ」
「……」
それは昔、おばあちゃんに言われたことだ。
「そのような行いに意味があると思うかどうかは君次第。だから、少々テストさせてもらったんだよ」
へなへなとその場に座り込む。……何だ……私、翠波さんに嫌われたわけじゃなかったんだ。
今日、改めて自分の周りの人だけでも助けたいって伝えたら翠波さんなんて言うかなってビクビクしてたのに拍子抜けだ。
「と、いうわけで。今日からはビシバシしごいていくから覚悟してね」
ごとん、と目の前に壺が置かれる。おそらく不浄が入っている壺だ。翠波さんの笑顔が怖い。
こんなへなちょこ女子高生を次期跡取りに育てようとしているのだから、練習がどんなにスパルタでもおかしくない。
血の気が引く私を、翠波さんはニコニコと笑顔で見つめてきていた。
――結局、その日のお祓い練習は夕方まで続き、帰る頃には外がわずかに暗くなっていた。
貴重な土曜日だというのに翠波さんは一切遊ばせてくれなかった。
それどころか「また明日ね~」などと明日の練習の予定まで取り付けてくる。
私の祓い方は私が予想していた通り物理的なものだった。殴ったり蹴ったり、物を使って攻撃したり。だからまずは武道の練習や筋肉を鍛えることも必要だろうと翠波さんは言っていた。
体育の成績中の下な私にできるだろうか、と今から不安である。
そんな不安を感じながら歩いていく帰り道。陽光は相変わらず私の隣にいる。
「あんたいっつも暗いと人間の姿で送ってくれるよね」
「家まで送るのに周りに姿見えねぇと意味ねーだろ」
「……陽光って結構過保護だよね」
口は悪いけど、私のことをしっかり守ろうとしてくれているのは感じられる。
「昨日も火の海に突っ込もうとする私をすごーい必死に止めてくれたじゃん。そんなに私が大事なんでしょ〜?」
ぷぷ、とからかうように覗き込むと、陽光が無言で私を見下ろしてくる。
そして、ゆっくりその顔がこちらに近付いてきたかと思えば――ちゅ、と私の唇に陽光の唇が軽く重なった。
………………は?
思考停止する私を置いて陽光が先に歩いていく。数秒後フリーズが溶けた私は慌てて陽光の背中に小走りで近付いて怒った。
「ファーストキスだったんだけど!」
まず出てきたのはそんな文句だった。
「知ってる」
んべ、と舌を出す陽光。
そりゃ、小さい頃から私のそばにいたなら私に恋人ができたことがないことなんてお見通しだろう。
「翠波が好きとか言うから、嫌がらせだ」
「は、はあ~~~~~!?」
意味分かんない。意味分かんない。意味分かんない。
唇をごしごし擦りながら、ドンドンと片手で陽光の背中を叩く。
「痛ッてぇ……やめろ、怪力」
「怪力とか言わないでよ!」
私たちがギャーギャーと騒ぐ声は、夜道にいる近くの幽霊たちをビビらせるほどに大きかった。
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