素直な気持ち

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「だから……お友達から、お願いします」  咄嗟にそんなことを口走っていた。 「お友達……?」  睦合くんも想定外だったのか、珍しくきょとんとした顔をしている。  その後で、こらえきれず笑い始めた。 「やっぱり美佳さんって、男慣れしてないんですね」 「ひ、ひどいな……悪かったね」  言い返すこともできないけれど、十も年下の男の子に揶揄されるのは面白くない。  視線を逸らせば、すぐに彼の手が追いかけてきて、至近距離まで引き寄せられた。 「悪くない。好都合です」 「え……」 「その方が、早く落とせそうな気がするので」 「なっ……!?」  一言呟いて、そのまま唇が重なる。  唇を食むだけのキスのあと、不敵に微笑む睦合くんがそこにはいた。 「な、んで、お友達からって言ったのに……」 「今どきキスなんて友達同士でしますよ」 「いや、嘘だよね!?」  小さく笑いながら、彼は眼鏡を外しテーブルの上に置く。 「……でも、ちょっと安心しました。この間、ホテルで僕、結構子供っぽいこと言っちゃったなって反省してたんで」 「子供っぽいこと?」 「美佳さんのこと、幻滅したとかいろいろ。まだ仕事以外のあなたのこと、よく知らないのにすみませんでした。なんかちょっと、拒否されたのにムカついちゃって」  そんなところが子供っぽいと感じたのか、彼はバツが悪そうに視線を逸らした。 「そんな、私だって睦合くんのこと何も知らずに……」  彼にとって、肩書きを理由に拒絶されるのは、嫌だったのかもしれない。  咄嗟に出た言葉とはいえ、私にも落ち度があった。 「ありがとうございます……じゃあおあいこってことで。僕は恋人からでもいいと思ってるんですけど、足田さんはお友達からゆっくりの方がいいですか?」 「それは……まあ」  恋人なんて、ハードルが高すぎてどうしたらいいかわからないし。  すると彼は、「一度セックスした中なのに」なんてあけすけな言い方をする。 「でも、チャンス貰えただけいいですよね。そこは頑張ります」 「う、うん……?」 「じゃあ改めてお友達から。よろしくお願いします、美佳さん」 「っ!?」  クスリと微笑んで、もう一度口づけられる。  眼鏡を外した彼は相変わらず顔が良すぎて、また胸がときめいてしまった。 「このままホテル行きますか? 明日休みですし」 「っ、行きません! お友達なので!」 「今どきお友達でも行きますよ」 「騙されないよ!?」 「……じゃあ今はキスだけで我慢します」  これからの二人の関係性とか、会社のみんなにどう言い訳をすればいいか、考えたくないほど問題は山積みだ。  だけど今は、目の前にいる彼のことで頭がいっぱいになっている。  彼に落ちる日は本当に近いかもしれない――。 Fin
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