126人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから……お友達から、お願いします」
咄嗟にそんなことを口走っていた。
「お友達……?」
睦合くんも想定外だったのか、珍しくきょとんとした顔をしている。
その後で、こらえきれず笑い始めた。
「やっぱり美佳さんって、男慣れしてないんですね」
「ひ、ひどいな……悪かったね」
言い返すこともできないけれど、十も年下の男の子に揶揄されるのは面白くない。
視線を逸らせば、すぐに彼の手が追いかけてきて、至近距離まで引き寄せられた。
「悪くない。好都合です」
「え……」
「その方が、早く落とせそうな気がするので」
「なっ……!?」
一言呟いて、そのまま唇が重なる。
唇を食むだけのキスのあと、不敵に微笑む睦合くんがそこにはいた。
「な、んで、お友達からって言ったのに……」
「今どきキスなんて友達同士でしますよ」
「いや、嘘だよね!?」
小さく笑いながら、彼は眼鏡を外しテーブルの上に置く。
「……でも、ちょっと安心しました。この間、ホテルで僕、結構子供っぽいこと言っちゃったなって反省してたんで」
「子供っぽいこと?」
「美佳さんのこと、幻滅したとかいろいろ。まだ仕事以外のあなたのこと、よく知らないのにすみませんでした。なんかちょっと、拒否されたのにムカついちゃって」
そんなところが子供っぽいと感じたのか、彼はバツが悪そうに視線を逸らした。
「そんな、私だって睦合くんのこと何も知らずに……」
彼にとって、肩書きを理由に拒絶されるのは、嫌だったのかもしれない。
咄嗟に出た言葉とはいえ、私にも落ち度があった。
「ありがとうございます……じゃあおあいこってことで。僕は恋人からでもいいと思ってるんですけど、足田さんはお友達からゆっくりの方がいいですか?」
「それは……まあ」
恋人なんて、ハードルが高すぎてどうしたらいいかわからないし。
すると彼は、「一度セックスした中なのに」なんてあけすけな言い方をする。
「でも、チャンス貰えただけいいですよね。そこは頑張ります」
「う、うん……?」
「じゃあ改めてお友達から。よろしくお願いします、美佳さん」
「っ!?」
クスリと微笑んで、もう一度口づけられる。
眼鏡を外した彼は相変わらず顔が良すぎて、また胸がときめいてしまった。
「このままホテル行きますか? 明日休みですし」
「っ、行きません! お友達なので!」
「今どきお友達でも行きますよ」
「騙されないよ!?」
「……じゃあ今はキスだけで我慢します」
これからの二人の関係性とか、会社のみんなにどう言い訳をすればいいか、考えたくないほど問題は山積みだ。
だけど今は、目の前にいる彼のことで頭がいっぱいになっている。
彼に落ちる日は本当に近いかもしれない――。
Fin
最初のコメントを投稿しよう!