6. 幸せになる方法

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6. 幸せになる方法

 ある夜、ここでのライブに、とても美しい女性がやって来た。  一目惚れだった。この街にこんなに美しく清らかな女性がいるとは思わなかった。  彼女はこの街の音楽教室でピアノ教師をしていて、親友のピアノの噂を聞いてひとりで聴きに来たのだ。  やがて、私達と彼女は音楽談義に花を咲かせる仲になった。ますます私の彼女への想いは募るばかりだった。しかし……。  彼女は親友に恋をし、すぐに二人は相思相愛の仲になった。美男美女のお似合いのカップル誕生だ。  その頃、私達のバンドにプロデビューのチャンスが舞い込んだ。  けれども親友がうんと言わず、いくら説得しても頑なに拒否してその話は実現しなかった。  彼はこの街で彼女と結婚して、穏やかに生きていく道を選んだのだ。  私は怒った。親友を恨んだ。惚れた女を奪われた上、このぱっとしない街から脱け出すチャンスまで潰されたのだ。  そんな時だ。店のマスターが電話で話しているのを立ち聞きした。  人魚の肉が今日のようにたまたま一人分余ってしまって、冷蔵庫に保管されていることを知ったのだ。  私は人魚の肉が入ったタッパーを盗んだ。 「どうしたと思う? 自分で食べたって? そんな愚かなことするわけないじゃないか……」
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