街のパン屋にはあやかしが集う

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ここ二週間位の間に車に轢かれそうになったり、頭上から鉢植えが落ちて来て危うく怪我をしそうになったり、熱が出て三日間寝込んだりもした。その他にも肩に何者かが乗っているのではないか?と思う程にずしりとした重みを感じている。 「今度、外で会えませんか?出来れば夜に……」 「……?はい、夜ならば私も都合が良いです」 「なるべく早い方が良いな。今日か明日、どちらか都合はつきますか?」 「今日でも大丈夫ですよ。お店閉めたら上がれますから、おそらく三十分後には……」 「では、近くの公園でお待ちしております」 「はい、なるべく急いで行きます」 何のお誘いなのか分からないままに約束をしてしまった。彼女の存在が謎だったのだが、彼の目を見ていたら不思議と断る事は出来なかった。彼は無表情なままに約束を取り付けると彼女を置いて、先に外に出た。今まで黙って会話を聞いていた綺麗な女性が口を開く。 「あの人、貴方の事もパンの事も気に入っているのよ。普段ならノーマネーの安請け合いはしないから。じゃあ、また買いに来るね」 ヒラヒラと私に向かって手を振り、店を後にした。彼女が私に近付いた時、何となくだが凍り付くような寒さを身近に感じたが気のせいだったのだろうか? 閉店時間になり身支度を急いで整えて、公園へと早歩きをする。過保護な父が「どこに行くんだ?」としつこく聞いて来たが、私も20歳を過ぎた良い大人だから心配しないで!と念を押して自宅を出て来た。 冬の公園は風が冷たくひっそりとしていて、彼だけがベンチに一人座って居た。 「お待たせしました。寒い中、待たせてしまってすみません!」 急いで行きたくて走って来たのだが、来る途中に何かにつまづいて道路上で派手に転んでしまい、両膝からは血が滲んでいた。擦りむいた傷が痛いが私は笑顔を見せる。そんな私の姿を見た彼は立ち上がり、私の目の前に膝まづいてから、私の左膝に右手を充てると目を閉じた。 「……これで傷は癒えたはずです。どうですか?まだ痛みますか?」 「え?どうしてだろう?全く痛くないです!」 彼が右手を触れた左膝は不思議な事に痛みが無くなった。私の症状を確認した彼は直ぐ様、右膝にも右手を充てると痛みが引いたのだった。 不思議な現象に目を丸くする私。触れられた両膝がポカポカと暖かく感じられる。 「ちょっと失礼!少しだけ我慢して貰えますか?」 彼は突然にも私の事を抱き寄せて、右肩をポンポンと叩いた。 「あっ、あのぉ……」 「……やはり、一筋縄では行かぬようだな」 ボソリと彼は呟き、私の肩から何かを剥がしとり、公園の地面の上に叩きつけたかの様に見えた。あんなにも重苦しかった肩が一瞬にして軽々しくなる。 彼は何者………? 彼から解放された私は後ろ手に回った。何故だか分からないが、不穏な空気が漂っていて恐怖を感じた。思わず、彼の背中を右手で掴んでしまう。 「オマエハ 鬼ノ 生キ残リカ?」 「そうだ。お前は何故、この者に取り憑いた?」 「コイツハ オレがヒカレテ死ニソウニ ナッテイタノニ 見捨テタカラダ。マダ 死ニタクナド 無カッタ」 最初は見えなかったが、今、目の前には巨大な白犬が存在している。巨大な白犬は私達の方向へと今すぐにでも襲って来そうな体制だ。
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