街のパン屋にはあやかしが集う

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「あはは、現代の鬼さんって普通の人間みたいに暮らして居るんですね。何だか親近感が湧いて来ました」 「ははっ、そんなにおかしいですか?」 「昔話の中の鬼さんから想像すると違いすぎて笑ってしまいすみません!」 「鬼も他の妖もひっそりと暮らす時代になりました。稀に起きている怪奇現象も妖の仕業かもしれません」 「そうなんですね」 俯き加減で話す彼の横顔がとても綺麗で私は見とれてしまう。人間の男性よりも妖艶で美しく感じるのは、彼があやかしだからだろうか?昔話の中の鬼は大柄で肌の色も赤や青だったりするけれど、想像とは大分違うものだな。 「ふふっ、昔話の鬼との違いに驚いてますか?」 見とれていた事に気付かれ、彼が笑いながら問い掛けてきた。その通りですとも、昔話の中の鬼とは似ても似つかない姿に驚いている。 「現代の鬼は純血ではなく、人間との半妖も増えて来ました。生涯を鬼だと悟られずに過ごす者も居ます。他の妖との交じりも多くなって来て、鬼の力も衰えて来ていますが…鬼の血を絶やす事だけは避けたいのですよ」 「そうですよね、血筋が絶えてしまうのは悲しい事です」 「……なので、貴方に私の花嫁になって頂きたいのですが…」 「……はい、って、今、何とおっしゃいましたか?」 彼がサラリと流し気味に発した言葉が上手く聞き取れないままに返事をしてしまったが、とんでもなく大変な一言だった気がして聞き返す。 「花嫁になって頂きたいと申しました」 何の心構えも出来てない私の頭の中に舞い降りてきた言葉。どうしよう…、突然の事に戸惑っている。返す言葉が見つからない。 「行く行くは仕事を辞めて、父上に弟子入りしたいのですが。貴方とパン屋を継ぐのが私の理想です」 確かに貴方の事は気に入ってはいるが、理想論を語られても頭が余計にパニックになるだけだった。 「……突然そんな事を言われましても。そう言えば、あの女性は奥様か彼女さんではないのですか?」 「あぁ、アレは妹です。私と彼女は鬼と雪女の間に産まれたが、私は鬼の血筋が濃く、彼女は雪女の血筋が濃く出ているんです」 「成程。彼女が近付いた時にヒンヤリと感じたのはそのせいですか?」 「そうだと思います」 彼と彼女は鬼と雪女の掛け合わせのあやかしらしい。妹の名は"貴子(きこ)"だと教えて貰った。貴子さんは、たかこさんと呼ばれるのが一般的だが、あえて、きこさんにしたらしい。読み方は違えど貴子さんと言う方は国内に沢山いらっしゃるので、あやかしの力を使わなければ人間に溶け込みながら共存していくにはピッタリな名前だと思う。それに色が白くて綺麗な彼女には高貴と言う意味合いが含まれた漢字を使った名前がお似合いだ。 「……貴方の名前をお伺いしてなかったのだが聞いても良いでしょうか?」 「はい。ごめんなさい、自分から名乗らなくて。私は小嶋 桜花(こじま おうか)と言います。桜の花が咲く頃に産まれたので、桜花なんです」 「素敵な名前ですね」
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