街のパン屋にはあやかしが集う

9/9

17人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
──時が経ち、例年よりも寒かった冬が終わりを告げた。皇大郎さんと出会って初めての春、今年も立派に桜の花は咲いた。 「見事な桜ですねぇ」 彼が焼いたパンを並べて、縁側で家族一緒に花見をしている。彼のあやかし仲間も人間の姿をして、桜を囲んで楽しんでいる。 あやかしの常連客が増え、売り上げが倍増した実家のパン屋は彼が継ぐ事を想定し、改築する予定だ。 彼は相変わらずIT企業に務めながら、土日は手伝いに来ている。彼が高級マンションに住んで居るのは、妖狐と呼ばれるあやかしとシェアしていたらしい。妖狐はファッション分野で独自に経営をしている社長だそうだ。 私達の関係性は付かず離れず、それでも進展はしていないのは私が恥ずかしくて、今だに皇大郎さんに抱きしめられるのも躊躇してしまうから。けれども、生涯を共にしたいのは事実だから……。 「まだ決めかねているので契りを交わすのは先送りになりますが、私で良かったらお嫁に貰って頂けますか?」 「え?」 「あやかしで生きるのか、人間のままなのかはまだ決めかねているんです。けど…皇大郎さんとは一緒に居たいな、って……」 「……っ、」 あれ?皇大郎さんは何時になく、顔が真っ赤だ。待たせに待たせた答えを言っただけなのに。もしかすると自分からはグイグイ押してくるけれど押されるのは苦手なのかな?言葉が出ない彼。 「は、はい。幸せにします」 少し間が空いてからそう言い残し、真っ先に父に報告に行った彼。 「桜花ちゃん、花嫁ちゃんになるの?」 「おめでとう、桜花さん」 妖狐、狸、三つ目などのあやかしに祝福されて私は幸せな気持ちになる。皇大郎さんが跡継ぎ候補な上に、あやかしの常連客がいるパン屋はこれからも安泰です! 【END】
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加