探し物が得意なハナ。だんだんうまく探せなくなってきたけれど。

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探し物が得意なハナ。だんだんうまく探せなくなってきたけれど。

眠い・・・。 まぶたが重くて離れたくないと主張してやまない。 よくこう呼ばれる。 眠たがり屋ハナ。 いいじゃないか、だれだって眠るのは好きだろう。 それでもどうしても起きなくちゃいけない時は来る。 「ハナ、ハナ!」 こうちゃんの声は特別だ。 「ハナ、ぼくのおもちゃがないの・・・。」 こうちゃんは泣き出しそうな声で、でも我慢して小さい声で呼ぶ。 「ハナ、おもちゃ一緒にさがして。」 しょうがないなあ・・・。 眠い目を半分ひらくのがやっとだが、こうちゃんのうれしそうな様子はわかる。 「ハナ、ハナ。ぼくのひこうきのおもちゃだよ。わかるよね。」 ああ、わかるとも。 こうちゃんの手に鼻をすりよせた。 ぷにっとしたちっちゃい手だ。 一度しっかり目を閉じて集中する。 こうちゃんのひこうきはお菓子の匂いがする。 こっちだ。 こうちゃんはきょろきょろしながらついてくる。 なあに、大丈夫だ。 おもちゃなんかすぐ見つかるよ。 一番見つけたい場所にくらべれば・・・。 コンコン、と箱をたたく。 こうちゃんが走ってくる。 「ここなの?」 こうちゃんがいそいそと箱を開ける。 「あ、あった~~~~!」 こうちゃんの飛行機は紙箱のなかにあった。 うっかり上に置いて、重さでなかに落ちてしまったのだろう。 「うわ~い♪」 こうちゃんはうれしそうだ。 「ハナ、ハナ、ありがとう~~。ほんとにすごいや。」 こうちゃんはたくさんなでてお礼をしてくれた。 いいんだよ、そんなこと。 こうちゃんの喜ぶ顔を見るのは眠ることより好きだ。 最近はアオイのほうが見つけるのがうまい。 特に匂いのしないものは見つけにくい。 アオイは遠くにはいけない。 でも部屋の中ならアオイはなんでも見つけることができる。 「う~~~、靴下のかたっぽがない。」 「マットの下だよ。」 「あたしの髪ゴムは~?」 「鏡の横。」 「おやつのプリンがない~~。」 「さっき食べちゃったでしょ。」 部屋の中にあるものなら見つけられる。 見ているからだ。 「ハナはすごいね。」 アオイは一日中ベッドで過ごす。 「見えないものでも見つけられるから。」 アオイは夜でも起きていることが多い。 「あたしはみんなを見てるから。見てたからわかるだけ。」 それだってすごいことだと思うんだけどな。 アオイの手に触れると、それはひんやりとした。 「ありがとね。ハナ。」 気持ちは伝わったようだ。 アオイはちょっとだけさみしそうに、でもにっこりと笑った。 一月後、アオイはとおくの病院へ移っていった。 アオイは元気になって戻ってくることもあるだろう。 大きくなって別のところへ旅立った子供たちもいた。 みんな元気にしているだろう。 最近は小さい子たちについていけないときもある。 それでもみんなのそばに近づくと喜んでくれる。 さやかは眠りながら泣いていることが多い。 くっついてやると安眠するようだ。 うらやましいな。 一番見つけたいのは自分が眠る場所。 眠れる場所はどこだろう。 数か月後、さやかのおばあちゃんが迎えに来た。 よかった。もう泣かなくていいよ。 さいごにしっかり抱きしめてくれた。 「ハナ。いつもありがとう。大好き。」 これからは笑いながら眠ることができるだろう。 みどり園にはいろんな子供がいる。 いろんな事情がある。 いろんな探し物がある。 絶対に見失いたくないものも。 こうちゃんがいなくなった。 みんな大騒ぎになった。 みどりママは青ざめて今にも倒れそうだ。 だれもがこうちゃんを探す。 おとなの人がいっぱいきて探している。 ひたすら探す。 こうちゃんの匂いはどれだったかな。 薄くなっている匂いもひとつづつ丹念にさがす。 ひたすら探す。 だって犬だからさ。 夜遅くなってみんながいなくなっても 匂いをたよりにひたすら探す。 もうあんまり匂いが辿れなくなっているんだな。 だけどあきらめるわけにはいかない。 こうちゃんをみつける。 とぎれとぎれになった匂いをかき集めるようにして あのぷにっとした小さい手を求めて ひたすら探す。 庭のくらがりになにかきらっとしたように見えた。 アオイとちがって見ることは苦手だ。 でも、それは見逃してはいけないサインだと思った。 ごくかすかにお菓子の匂いがする。 どこかで嗅いだ匂いだ。 草の匂いにかき消されそうなそれは か細いながら呼んでいるように思える。 ひたすら探す。 こうちゃん、こうちゃん。 あの特別な声も聞こえない。 匂いだけが頼りだ。 こうちゃん、こうちゃん、こうちゃ・・・。 なんだ、そこにいたんだ。 庭のすみの木の根っこにうずくまるようにして こうちゃんは眠ってしまっていた。 こんなつめたいところにいたりして。 運んであげるちからがない。 さやかのようにくっついて温める。 だれか見つけてくれるかな。 冷え切っていたこうちゃんの体は少し温かくなってきた。 でもこうちゃんの眠る場所はここじゃない。 だれか、はやくこうちゃんを見つけて。 体が動かない。 眠い・・・。 もうここで眠ってもいいかな。 「ハナ、ハナ。」 だれかの呼ぶ声がとおくでする。 「もう一度目をあけて。」 ちいさい手がたくさん触れる。 「ハナ、ハナ。」 こうちゃんの声だ。 重くなったまぶたのすきまから、こうちゃんの泣き顔が見えた。 なにを泣いているのだろう。 おもちゃが見つからないのかな。 「ハナ!」 ほかの子供たちも呼んでいる。 目をあけるとみんながいっせいに笑った。 ああそうか、ここがわたしの眠る場所なんだ。 みんなといっしょに眠っていいんだ。 さがしていたものはこんなに近くにあったんだね。 ありがとう。こうちゃん。 大事な場所を見つけてくれて。
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