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「何ですか?」
「分からないんだ」
見ているこちらが胸を締め付けられてしまうほどの切ない瞳で、百合を見つめる。
「愛しいとは何だ? 私にはまだ分からない。けれど、君のことをもっと知りたい。私のことを大切にしてほしい……そんなことを望んでしまうのは何故だ?」
「私だって、偉そうなことなんて言えません。でも、言えるのは大切な相手がいることはとても幸せだということです」
「皆、私よりも先に死んでしまうではないか。大切に思っても人間は……」
「ヴィルさん……」
その時なんの前触れもなく来客が訪れる。
窓ガラスをコツコツ叩く音が聞こえた。
「ヴィルジール・ジョアン、ここにいたのか」
窓枠に立ち、黒ずくめの服を来た男性がヴィルジールを睨みつける。
「ベルナール・マルブランク!」
ヴィルジールはとっさに百合を後ろに庇った。
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