初めての感情

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「ヴィルさん……」  ヴィルジールと百合は何も言わず、視線を通い合わせる。 「傷の手当て、終わりました」  我に返ったように百合は顔を反らし、ヴィルジールに告げた。 「あ、ああ。ありがとう」 「いいえ。私、帰りますね」 「ああ……黒猫」 「はい」 「……いや。やはり今日は私が送ろう」 「え?」  百合と黒猫は同時に驚いてしまう。 「何だ?」 「いいえ。何も」と黒猫は言う。  何故こんな状況になっているのだろう?と百合は考えていた。先輩のことで怒って館に行ったはずが、血を吸うヴァンパイアに遭遇し、庇われてこうなっている。百合は歩きながらヴィルジールを見上げた。 「今日はすまなかった」 「ヴィルさん……良いですよ」 「え?」 「先輩のことなら“もうしない”って約束してくれましたし、あのヴァンパイアのことなら庇ってくれましたし。だから、大丈夫です」 「百合……」  ――それに触れられたの嫌じゃなかった。私は部長が好きなのに……。  走って3分の距離はあっという間で、すぐに家へたどり着いた。 「送ってくれてありがとうございました」 「いや。百合……館へまた来てくれるだろうか」 「え?」  ヴィルジールのその瞳は何とも言えない寂しさを映し出しているようで……百合は戸惑ってしまう。 「はい、良いですよ」  そして、関わりたくないと思っていたはずなのに、また会いたいとどこかで感じていた。 
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