奇跡

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奇跡

 百合が出て行って数時間後。父親はかなり動揺していた。リビングの椅子に座り頭を抱えている。 「なんで、ヴァンパイアなんだ……」 「秋人(あきと)さん」 「百合には普通の人間と結婚してほしい。苦労させたくない」 「そうよね。確かに結婚はまだ早いし、苦労も目に見えてる。でもね、百合が選んだ人よ。私はあの子を信じるわ」 「沙也加(さやか)……そうだな。あの子ももう16だもんな。彼は良いヴァンパイアのようだし」  時計を見るとあと5分で0時になる。 「私、サインして来るわ」 「ああ、俺も行くよ」  沙也加と秋人は玄関へ急いで行く。 「場所分かるのか?」 「ええ」  沙也加は百合に館の場所を聞いていた。  館ではどんどん体調が悪くなるヴィルジール。どうすることも出来ずに話しかけ続ける百合。 「ヴィルさん、きっときっと助かります。私達、運命だったんですよ? こんなことで終わりなんてあり得ません! 大丈夫。あと5分あります」 「百合……ありがとう。私は百合に出逢えて幸せだ。私ほど幸運な者などいないだろう。私を好きになってくれてありがとう。私に人を愛することを教えてくれて……ありがとう」 「ヴィルさん……」 「お館様……」  執事や黒猫達も悲しげに見守っている。    百合は奇跡が起きるのを待った。もしかしたら、サインをしに両親のどちらかが来てくれるかもしれないことを。
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