帰れない

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 帰れないのなら仕方ない、はっきり断ろうと黒猫に付いていき、百合は館へ来た。同じような所をぐるぐる周っていたせいで、すっかり日も暮れてしまった。北風が身に染みる。 「さ。中へどうぞ」  黒猫にうながされ百合は中へ入る。途端に温かい空気が体を包む。すると、昨日はいなかった小柄な若いメイドがいて、通された部屋でヴィルジール・ジョアンが食事をしていた。ふわりとコンソメスープのような香りが鼻をかすめる。 ――わっ。良い匂い。  白いテーブルクロスの上に美味しそうな料理が並んでいる。 「どうぞ。お座りください」  執事が現れ椅子をひいてくれる。百合は仕方なく座ることにした。 「はい」 「冷めないうちにどうぞ」  百合はヴィルジールを盗み見ると黙々と食事を口に運んでいる。百合が視線を外し食べ始めると、ヴィルジールの声が聞こえた。 「来てくれてありがとう」 「……帰れないからです」  百合は視線を落としながら答える。 「名前を聞いても?」 「進藤 百合です」 「百合か……」 「はい」 「私はヴィルジール・ジョアンだ」 「はい」 「歳は?」 「16です」 「ヴィルジールさん」 「ヴィルで良い」  じっと真顔で百合を見つめる。 「話は後にしよう。まずは食事だ」
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