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ゆがみ
ヴィルジールは百合が帰る姿を窓から眺めている。
「ヴィルジール様。よろしいのですか?」
執事がヴィルジールに話しかけた。
「ああ」
「何かお考えが?」
「……そうだな。なあ、“好きな人”というのはそんなに特別なのか?」
穏やかに微笑む執事はうなずいた。
「ええ。そうですね。心の底から愛おしいと感じられる、自分の命さえその相手の為なら差し出してもかまわない……そんなふうに思えるものですよ」
「そうなのか。私にも分かる日が来るのだろうか?」
「ええ。きっと来ます」
「何故か分からないが……あの娘、百合。今まで出会った娘とは何か違う気がする」
「気になるのですか?」
「そうだな……しかし、百合には好きな人がいる」
「ええ」
「好きな人がいなければ、私と結婚してくれるのだろうか?」
「それはどうでしょうか」
執事は困ったようにハの字に眉を寄せる。
「どういうことだ?」
「好きな人がいなくても、ヴィルジール様を好きになるかは別の話かと……」
「そういうものなのか?」
「ええ」
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