月明かりと呪い

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 肝試しが始まり40分ほど経った。3人がそれぞれ懐中電灯を携えて森の中を回って戻ってきていた。  お寺の周辺の地面にライトが設置されているのと、この日は月が明るかったのもあって誰も森の中で迷わなかった。森で適当に歩いて、頃合いを見てライトの光がある方へ戻ればいいのだから。  ただ、最後がEさんだった。彼女の番になったときにまたもルール変更が入る。 「Eちゃんは森もどんな感じか知ってるし、懐中電灯持ってたらずるくない?」  また先ほどの友達が言い出した。 「うん、今日はお月様が出てて明るいから、懐中電灯はダメだよ」  他の2人もやや同調に傾く。 「えっ、でも……」  月明かりだけを頼りに夜の森を歩くように言うのである。難色を示したEさんだが、最後の彼女がここでごねると白けたムードになるだけだと判断して諦めた。  渋々懐中電灯を友達に渡し、Eさんは1人森の中へと入っていく。 「ちゃんと森の中でお札とかろうそくとかしめ縄とか、探して持って帰ってくるんだよ」  後ろから声がかかり念押しされてしまった。しめ縄は神道のものなので通常は寺にはないのだが、彼女たちは誰も知らない。  お寺周辺のライトのおかげで帰りには迷わないだろうが、何かを森の中で探すのは大変そうだ。  Eさんが手ぶらで森に向かったことは確認されているわけだが、当日のルール変更のためにあらかじめポケットに何か仕込んでおくこともできない。現地で何か見つけるしかなかった。  明かりがほとんどない森の中へ入っていく。幽霊はいるかもしれないと日頃思っていたEさんだが、友達3人が何事もなく戻ってきたことで、自分の番でも何もないことを期待していた。  ガサ、ガサッ。  境内は静かで、Eさんが地面の葉っぱを踏みしめる音だけが響く。  何か拾うために足元に意識を集中させていると、上の方に無頓着になる。自分より背の高い草が少し目に当たりそうになり、手で払いのけていく。 「何も落ちてないよ……だいたい人が森に入ってるかどうかもわからないのに」  前方がよく見えない。ひたすら静かだ。夏だというのに虫の鳴き声もしない。心細くなってくる。  上を見ると丸い月が変わらず浮かんでいる。  ザシュッ、ザシュッ。  一歩一歩踏みしめながらしばらく進む。虫が食い荒らした葉っぱが顔に当たり、Eさんはおののく。蜘蛛の巣が顔にへばりつき、慌てて手で引っぺがす。 「もうやだよ、帰りたい……」  何分ほど歩いただろうか。泣きたい気分になってきた。枯れ枝を踏み、枯れ葉を踏む。全身に汗がにじんできた。蒸し暑い。  ザッ、ザッ。  足音が変わった。ほんの少し開けた場所に出たように思った。足元に枯れ葉が積もっていないのだ。木の間隔が開いたのか。 「あっ、何かある」  何かが光ったように思えて目をこらしたEさん。20センチほどだろうか。それに近づいていく。 「人形?」  明かりがないためよく見えないが、Eさんが想像したのは日本人形であった。確かこのお寺では、人形供養もしていると聞いたことがあった。  とにかくこれを持って帰ればノルマが達成できる。Eさんは素手でそれを掴んだ。髪の毛部分だろうか、毛の感触が手のひらに伝わるのだがかなりの不快感があった。濡れているのである。 「うわっ、汚いなあ。水はけが悪いのかな」  この前に雨が降ったのはいつだっただろうかと軽く考えながらも、Eさんは持ち上げた。胴体らしき部分はグニョッという手触りがする。雨風に晒されて中身が腐ってきたのかもしれない。 「でも、さっき何が光ったんだろう」  おそらく月明かりが反射したのだろう。しかし人形のどこにそのように光るものがあるだろうか。  Eさんは急に怖い話を思い出した。拾った人形を部屋に持ち帰ったところ、夜中に人形の目が光って襲ってくるという話だった。少しゾッとする。 「うう、もう、他のを探してる余裕ないよ」  光ったもののことを考えてもわからない。森に入ってかなり時間が経過しているはずだ。  Eさんはそれを抱えて、来た道を戻り始めた。  行きに比べると帰りは早く感じる。わずかに見えるお寺周辺のライトだけを頼りに、ひたすら前だけを見て進んだ。
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