発見に次ぐ、発見に次ぐ、発見

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 街外れの喫茶店に、いかにも暇そうな大学生風の男が4人。 「暇だな」  煙草の灰を落としながら、坊主頭が呟いた。 「なにか面白い話、誰か持ってねえの?」  坊主頭の言葉に、他の3人はそれぞれに視線を交わし、首を捻ったり、苦笑いをしている。 「ああ、んじゃあさ、最近あった発見でも、それぞれ言っていくか?」  茶髪のぼさぼさ頭が気怠そうに言った。 「発見ねえ」  パンキッシュに黒髪を逆立てた男が腕を組む。 「良いんじゃねえ。んじゃあ俺から言うわ」  坊主頭が煙草を灰皿に押しつけ、 「俺、原付で大学に通ってるじゃん。この前ふらふらしてたら、凄くわかりにくい抜け道を見つけたんだよ。なんと、5分も短縮」  そしてまた新しく煙草に火を点けた。 「良いねえ」  茶髪がアイスコーヒーをストローで啜る。 「あー、じゃあ、次俺」  パンクヘアがご丁寧にも手を挙げて言う。 「最近行ってるパチンコ屋、凄く甘い釘の台がある」 「釘って変更されるんじゃないの?」  茶髪が訊くと、パンクヘアはかぶりを振って、 「それが、まったく変更されないの。しかも型落ち台だから、ほぼ座れる」 「今度教えろよ」  坊主頭が煙は吐き出しながら笑う。  それから視線を流し、 「お前、随分静かじゃん」  そう眼鏡を掛けた男に言った。  眼鏡の男は「まあな」と言い、 「じゃあ、次は俺が言うよ」  ふっと薄く笑った。  眼鏡は視線をテーブルの真ん中に置き、ゆっくりと話し出す。 「俺、彼女いるじゃん」 「ああ」  坊主頭が頷く。 「彼女がさ、男と歩いてるのを発見しちゃったんだよね」 「へっ……へえ……」  パンクヘアがごくりと唾を飲む。 「それでさ、その男ってのがさ――」  眼鏡男は視線をゆっくりと上げ、茶髪の男を見る。 「お前だよ」 「はあ?」  坊主頭は煙草を落とし、 「本当かよ?」  パンクヘアは身を乗り出した。 「おっ……俺?」  ストローをくわえたまま、動揺する茶髪。  そんな茶髪を眼鏡の奥で鋭く睨みつけ、 「そう。なにしてたんだよ、お前」 「いや、待て、なにかの間違いじゃないか?」 「さすがにいつも一緒にいるお前の顔を見間違える程、俺は目が悪くはない」 「えーっと……」  茶髪は助けを求めるように、坊主頭とパンクヘアに視線をやるが、2人はもうリングアウトしている。 「家行って、朝まで――」  眼鏡男は鋭い視線をそのままに言う。 「……まさか……」  生唾を飲む音が、ひどく生々しく聞こえる。 「……張ってたのか?」 「ああ。言い逃れ、できるか?」  眼鏡男の言葉に、しんと静まり返るテーブル。  俺は横でそれを見届けると、伝票を持って入り口へ向かった。  会計を済ませ、4人が座るテーブルを振り返る。  狼狽しているのか、茶髪がひどく揺れている。  気分転換で入った喫茶店で、随分と貴重なものを見させてもらったと、俺は満足しながらドアを開ける。  友情が崩壊する原因の一端を発見した俺に、秋風が優しかった。
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