コンピューター人間

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*  それから180年後の23世紀。ついにあーしは人間の脳をコンピューターに移植することに成功したよ。  ハードウェアは簡単だった。インフラのスペックは21世紀のクラウド環境レベルで十分だった。  クラウドのように分散されたサーバーに、脳機構をマッピングしたソフトウェアを組み込んで、個人の記憶をストレージに格納し、数値化した思考パターンをパラメーターとして設定することで、ほぼ完璧に人間を再現出来たよ。  そして、あーしの脳はだいぶ老化が進んだから、あーしも脳を捨てて「コンピューター人間」になったんだ。  脳を失っても、センサーを接続すれば五感も処理出来るし、ドーパミンみたいな神経伝達物質の作用も再現するし、勿論、感情も自動生成する優れ物だよ。  たまに、あーしの喋り方が変って言われるけれど、まあソフトウェアをバージョンアップしていけば改善出来るんじゃね?  というわけで、あーしは人間の脳をコンピューターに移植する方法の発見者として、今年、ノーベル賞をもらったってわけ。  ちなみに、コンピューター人間のニュースは世界中を駆け巡って、脳人間の時と同様にコンピューター人間化を希望する人達で殺到したよ。  今、申請しても実装出来るのは5年後の待ち状態らしい。  まあコンピューター人間は複製できてしまうとか、物であって肉体ではないから、傷害罪や殺人罪は適用される? 結婚は? みたいな法律上の課題は山積してるし、タカ派の人権団体がテロを起こそうとしたりして混乱はあったけどね。  でも、そんな混乱を一掃するような、あーしのノーベル賞なんか霞むような出来事が、一ヶ月前に起こったよ。  それはね、宇宙人の艦隊が地球に向かってるってニュースだった。 *  専門家達が言うには、地球に向かって来ている宇宙人はきっと21世紀に発見された、0.15光年先のドーナツ状の物体と関係あるはずだ、とのことだった。  つまり、ドーナツは監視衛星で、それに興味を持った知的生命体を(おび)き出すための擬似餌だって説。  地球からドーナツまでは、地球の技術で片道千年かかるから、まだ探査機は5分の1しか近づいていないのに、早々と監視に引っかかったみたいだね。  まあ、探査機はX線をドーナツに向けて飛ばしてるからそれでバレたのかな?  とにかく、何処かの天体がものすごい速さで艦隊を送り出したんだろうね。  計算によると、艦隊はあと数ヶ月ほどで地球に着くんだとか。  宇宙で未知の物体を発見したと思ったら、実はこっちが発見されてましたよ、ってオチね。  なので、世界中の人々は今、侵略の脅威に(おび)えてるよ。  でもね、あーしにはあんまし興味なかった。むしろこれは良いニュースだと思ってる。  だって、地球外生命体を見られるなら、ジョニーはきっと大喜びするじゃん?  まだ、彼の脳腫瘍を治療する技術は見つかってないけれど、あーしは、彼を人工冬眠から起こす時が来たと思ったね。
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