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プロジェクタームーン計画が実行される日、テレビではロケット打ち上げの様子が生中継された。
コンビニで買った缶チューハイ片手にベランダに出ると、真っ暗い空を見上げた。
テレビではカウントダウンが始まり、路上に躍り出た野次馬が騒ぎながらスマホを空に向けている。
カウントがゼロになるのと同時に、街灯や家々の灯りが消え、空の上にまん丸い満月が現れた。
歓声を聞きながら缶の蓋を開ける。
泡が弾けるそれを半分くらい飲み干し、ベランダ柵に寄り掛かった。
青白い月を見上げながら、囁くような声音で言う。
「好きだよ、彼方」
月までは届きそうもないその声は、群青色の夜空に溶けて消えた。
つま先でベランダのコンクリートを軽く蹴ると、ふと視線を空へと戻す。
すると、パチパチと数回、遠くの空の月が瞬いた。
背後のテレビでは、たった今、月面に大きな旗が立ったと告げられている。
この気持ちは、
墓場まで持っていくと決めていたけど、
彼方が月まで持っていってしまった。
俺の気持ちは今でも、
遥か遠い月面ではためいている。
END.
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