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彼方と俺は、何もかもが対照的な存在だった。
俺はいつでも分厚い眼鏡を掛けていて、千円カットの理容室に通い、制服のボタンはぴっちりと上まで閉じてる。
派手なもの好きで垢抜けた容姿の彼方とはどう見ても不釣り合いな見た目をしてた。
高校三年のある日、進路について父親と大喧嘩したからと俺の部屋に彼方が転がり込んできたとき、思い切って聞いてみた。
「俺と一緒にいても何の得にもならないじゃん、なんで友達でいてくれんの」と。
彼方は「友達じゃねぇよ」とすぐさま答えた。
「此方と俺は、親友じゃん」
そうするのが当然とでもいうように、俺のベッドに寝そべって彼方は眠たそうな声で続けた。
「俺にとって一番の得はさ、お前とこの先もずっと、こうして馬鹿みてぇな話していられることだから」
微睡んで目を閉じる彼方の顔を見下ろしながら、俺は今が自分の想いを伝える"最初で最後のチャンス"だと思った。
好きだと伝えたら、こんな馬鹿みたいな話も出来なくなるんだろうか。
もし、本当の意味で何の得もえられなくなっても、それでもそばに居てくれるだろうか。
気付けば目の前の彼方は、すやすやと寝息をたてていて。
俺は結局、その最初で最後のチャンスを逃してしまった。
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