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アンリ第七王子 第二話
俺が十八になったとき。
第一王子であるマシューが、王家主催と銘打ってパーティを企画した。
王家と深い関係にある貴族。あるいは、これから関係を深めたい貴族。彼等を招待するパーティ。
マシューの考えが、俺には手に取るようにわかった。
マシューは第一王子。しかも正妻の子。王位継承権の順位は、一番高い。しかし、兄弟の中で一番優秀かつ人望も厚いのは、次男であるイヴァンだ。
だからマシューは、貴族連中を集めて、自分の存在をアピールしようとしている。有力貴族を自分の懐に入れてしまおう、と。そんな発想から開くパーティー。
マシューは現在、二十三歳。王位を継ぐには少し若い。しかし、次期王となるための行動を開始するには、いい時期と言える。
第二王子のイヴァンは二十二歳。こちらも、行動開始の適齢期と言える。
パーティまであと数日。
俺は、パーティに招待する名簿を見ながら、小さく溜め息をついた。
マシューが行動を始めた。それはつまり、他の王位継承権者に対する宣戦布告を意味する。当然、これから水面下での争いが始まるだろう。
すでに俺は、これから先の展開を予測していた。
七人の王子の中で、正妻の子は二人。第一王子であるマシューと、第六王子であるフィリップ。フィリップは、現在十八歳。こいつも、王位争いを開始する適齢と言える。とはいえ、立場も能力もそれほど高くない。
王位争いは、マシューとイヴァンの一騎打ちになるだろう。
その結末も、俺には見えている。
間違いなく、イヴァンの勝ちだ。彼等の勝敗は、マシューの死によって明らかになるだろう。マシューが貴族との関係を深め、第一王子という立場も手伝って、王位継承にあと一歩まで近付く。その時点で殺されるはずだ。
マシューの死によって国内が慌ただしくなった時点で、イヴァンは手を打つだろう。貴族連中だけではなく、国民全体に支持されるような何かを。
となれば、俺が取る行動はひとつだ。そんな生臭い争いが始まる前に、とっとと王家を出る。
せっかくだから、今度のパーティで結婚相手を探そう。結婚を機に、王家を出るんだ。どこかの貴族の娘と結婚して、のんびりと生きよう。
たとえ王家を出たとしても、腐っても王族だ。侍女や執事の数人は貸して貰えるだろう。もっとも、俺は料理を含めてあらゆる家事をこなせるから、侍女も執事も必要ないんだけど。
料理は絶対的に必要なスキルだった。いつ毒を仕込まれるか分からない状況で、他人が作った料理など食えない。
そんな俺を、王も兄弟達も、単なる料理好きの馬鹿だと思っている。これもまた、俺の思惑通りだった。
パーティ名簿の中に、気になる名前を見つけた。アースキン男爵家。この家のことは知っている。先代が、事業で大成功した家だ。経済力だけなら、有力貴族とも肩を並べている。
端的に言えば、成り上がりの貴族。
現在のアースキン家に欠けているのは、家としての泊だけだ。
もし、アースキン家の娘が、王族の人間に求婚されたなら。
現在のアースキン家党首は、うむを言わさず結婚を後押しするだろう。王家とパイプができる。義理の家族となる。それは、彼等にとってそれ以上ない泊のはずだ。たとえその結婚相手が、俺のような『怠惰な第七王子』であったとしても。
都合のいいことに、アースキン家の娘もパーティに参加するようだ。名前は、エーリカ。エーリカ・アースキン男爵令嬢。
さて、と。
俺はじっくり考えた。どうやってエーリカを口説くか。
俺はエーリカの顔を知らない。当たり前だ。今の今まで、名前どころか存在すら知らなかったのだから。
まずは、適当な者を使って、エーリカのことを調査しよう。彼女の行動から、どんな女なのかを確認しよう。
同時に、頭の中でシュミレーションするんだ。どんなふうにエーリカを口説き落とすか。彼女の人間性はまだ分らないから、あらゆるパターンを想定しよう。エーリカが美人で高飛車だった場合。外見がイマイチで、自分に自信のない女だった場合。ごくごく平凡な女だった場合。
王家の人間は、異性を口説く術すら幼い頃から学ぶ。結婚し子を成さなければ、血が途絶えてしまうのだから。『怠惰な第七王子』である俺も例外ではない。女の口説き方からベッドでの立ち回りまで、散々勉強した。実践込みで、だ。
パーティが始まったら、まずはエーリカを探そう。見つけたら、とりあえず観察。どんな女か。どんな趣味がありそうか。どんな男が好きそうか。調査の結果と実物との、差分を埋めてゆく。
エーリカの人物像が掴めたら、接近する。どんな口説き文句で攻めるかを決定したうえで。
俺は、人を見る目が優れている。調査結果とその場の観察で、すぐにエーリカの性質を掴めるはずだ。
来たるパーティの日に向けて。
じっくりと、計画を立てた。
王家を出る計画。エーリカを口説く計画を。
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