中編 村人への不信感

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中編 村人への不信感

 シーナとナーシーが出会って半年の月日が流れ、春の季節が訪れる。  雪は溶け、桜や野花が咲き、また農作業が盛んな季節となる。  シーナは女であるが、村男と同じぐらいの腕力があり、その力を自慢げにアピールしていた。  シーナが居て、村も賑やかになる。しかし今年は違っていた。 「シーナ、少し休もう」 「大丈夫です」  村人に話しかけられてもシーナは顔すら見ず、黙々と(くわ)を動かし畑を耕している。 「シーナ、握り飯食べよう」  生まれた時から可愛がってくれた、サラサお姉さんに声をかけられる。  シーナは手を止め、お姉さんを見る。  しかし、差し出された三つの握り飯に、シーナはどうしようもない苛立ちを感じる。 「いらない!」  鍬を投げ捨て、家に帰る。 「どうして二つはダメなの!」  子供のシーナは、ただ泣く事しか出来なかった。  また半年の月日が流れる。  シーナとナーシーが湖の前に会うようになり一年。今年も収穫祭の季節がやってきた。 「シーナ、最近はどう?」 「大人は嘘ばっか! みんな信じられない! あんな村出て行きたい!」 「辛いね ……。でも、我慢しないと ……」 「うん。子供は一人で生きていけないから ……。それに、大人はどうしてムダなケンカするんだろう」 「本当に ……」  二人は顔を見合わせ、俯く。  シーナとナーシーの村は同じ山にあるのだが、土地や農作物の権利に対するトラブルが遥か昔より勃発しており、現在ですら解決出来ないでいる。  当然、村人同士仲が悪く冷戦状態だった。  内情は分かっていても、飢えの苦しみを知らない子供の二人には分からない話だった。  ただ、皮肉な事にそのおかげで村同士の連携がなく、二人が会っている事は知られずにいた。  そして二人は分かっている。  顔が一緒な自分たちが共に居ることが知られたら殺される。あの赤ん坊達のように ……。  秋の満月の夜。今年も収穫祭が開催された。  大人たちの酒が回ったのを確認したシーナは、こっそり祭りが開催中の村を抜け、ナーシーと約束している湖に走る。 「シーナ!」 「ナーシー!」  二人は湖の前で遊び、湖に映った月と自分達を見る。 「去年月を取ろうとして、湖は姿をそのまま映すとナーシーが気付いたんだよね! あの時、気付いてくれなかったら私達は ……」  二人は湖に反射する、瓜二つの顔を見合わせる。 「家の子、どこにやったの!」 「私も娘を探しているだけでして ……」  風に乗って、女性同士の声が聞こえてくる。 「…… お母ちゃん ……?」  シーナは狼狽える。  母親は優しくて穏やかな性格。あんなに強い口調で誰かを捲し立てることなんてなかった。  娘が居なくなり、村の近くに敵対している隣村の村人が居る。母親が誘拐されたと疑ってもおかしくなかった。 「お母ちゃ ……!」 「だめだよ!」  ナーシーはシーナの腕を掴む。 「私のお母さんの前にシーナが出て行ったら、私と同じ顔だとバレちゃう! そしたら私達は ……!」  シーナはその言葉に、ナーシーの手を引き慌てて草陰に隠れる。  親同士が離れたところで、互いが親の元に帰るしかない。二人は息を殺して、話が終わるのを待つ。 「私達は娘さんを拐ったりしていません!」 「貴方達の村なんて信じられない!」  どんどん口調が強くなり、詰め寄る勢いのシーナの母親。  ナーシーの母は、どんどん湖に追い詰められていく。  バシャーン!  なんと、シーナの母親がナーシーの母親を湖に落としてしまったのだ。 「お母さん!」  ナーシーは思わず飛び出して湖に飛び込み、シーナは慌てて母親に自分は拐われていないと主張する。  ナーシーの母親は、娘によって助けられる。  しかし、最悪の形で二組の親子は対面してしまった。  母親二人は娘を見て唖然とする。  額の広さ、眉の形、垂れ目な二重、低い鼻、薄い唇、笑いボクロ。全てが瓜二つだった。  次の瞬間、二人の母親はそれぞれ娘を抱き上げ各々と走り出す。 「シーナ!」 「ナーシー!」  互いの名前を呼び合うが、二人は引き裂かれてしまった。  その後、シーナはその後母親に監視され、ナーシーに会えなくなった。 「シーナ。あのね ……」 「……」  一年前のあの日以降、シーナは母親に何を言われても話を聞かず返事すらしなくなった。大人は全て嘘吐きだと思っているからだ。  内職として手伝っていた草鞋編みを止め、ただ部屋の隅でじっとしている。その目は、母親に対する軽蔑の目だった。  ── お母ちゃんは生まれたばかりのナーシーを捨てた。この村の人は、サラサお姉さんの赤ちゃん二人を殺した。  ── 忌まわしい風習のせいで!
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