第九章・四界の王たる者、その矜持

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 だがしばらくして士官が困惑した様子で戻ってきた。 「王妃様はご気分が優れないようで、お休みになっているようです」  士官の報告にデルバートが険しい顔をする。 「本人の声を聞いたのか」 「いえ、四大公爵夫人のダニエラ様が対応されました」 「四大公爵夫人か……。他には?」 「最側近のコレット様にもお声がけしましたが同様の返答です」  デルバートは少し思案する素振りをみせたのち、ならばと提案する。 「そうか、では見舞いに行こう」 「しかし王妃様は誰にも会われないそうですが……」 「魔界の妃になにかあっては一大事だ」  デルバートは有無を言わせぬ口調で言い切った。  この場に初代魔王デルバートに否と言える者などいない。 「異存はないな。行くぞ」  デルバートはそう言うとレオノーラに手を差しだす。  レオノーラは穏やかにほほ笑んで、デルバートの手に手を重ねた。  二人は玉座の間を出て長い廊下を歩く。  二人が向かうのはブレイラがいる本殿の一室。  廊下ですれ違う士官や女官はデルバートとレオノーラを見ると驚いたようにざわめく。  しかしそこにいるのは初代魔王デルバート。そして祈り石となって星を守っていたレオノーラ。ここに二人を歓迎しない魔族はいない。  士官や女官は脇に退いて恭しくお辞儀し、その開かれた道を二人は歩く。まるで王と妃のそれだ。  そして二人はブレイラがいるはずの部屋の前に到着した。  だが扉の前には四大公爵夫人筆頭ダニエラ。その後ろには王妃ブレイラの最側近コレットが立っていた。  ダニエラがデルバートに丁寧にお辞儀する。 「これはこれはデルバート様。ご機嫌麗しく。そちらの御方は……」 「紹介しよう。レオノーラだ」 「やはりお目覚めになられたのですね。少し早いように思いましたが、ここにいても目覚めの御力を感じました」  ダニエラはそう言うとレオノーラに向かってお辞儀する。 「初めまして、王妃ブレイラ様臣下にして四大公爵夫人筆頭ダニエラと申します」 「ブレイラ様にお仕えしております。王妃直属女官組織総取締役コレットと申します」  コレットもダニエラと同じく丁寧にお辞儀した。  二人はにこやかに挨拶するが扉の前からは動かない。  そんな二人にデルバートはスッと目を細めた。 「ブレイラの気分が優れないようだな。見舞いに来た」 「わざわざのお越しありがとうございます。ブレイラ様もお喜びになります。しかしながらブレイラ様は誰にもお会いになりません。ご回復ののちご挨拶に伺いますので今はご容赦ください」  ダニエラはきっぱりと断った。  ダニエラの主人はブレイラである。たとえ相手が初代魔王デルバートであろうと揺らがない。それはコレットも同じだ。
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