底は黒く、雲は白く

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 土曜のその日は、ランチからファミレスでアルバイトをしていた。大学近くに位置しているから、ランチの客は学生が多い。  ピークが落ち着いた昼過ぎ、所謂アイドルの時間帯に入り、俺は休憩に入った。それに合わせて、俺の従業員割り引きを使い、「飯でも食いながら今年の学祭の方針を立てよう」とか言って、同期の委員会のメンバーがやって来る事になっていた。だから、その日は裏に籠らず一旦着替え、普段はあまり使わない客席に座ってメンバーが来るのを待っていた。  聞き慣れた入店のチャイムと店員の案内には気にも留めずにスマホを弄っていた。すると、俺の傍を通り掛かった誰かが、ふと足を止めた。 「あれ? 久鷺翔くんじゃん。久し振り」 「え? 益盧先輩! ご無沙汰です」  声を掛けてくれたのは、2つ上の木村益盧先輩だった。益盧先輩も学祭の実行委員長を務めていた過去が有り、今の俺としては是非とも鑑としたい立派な存在だ。 「まだここでバイトしてたんだね」  このバイトこそ、先輩の紹介で始めたものだった。 「先輩、今日はどうしたんですか?」 「仕事の打ち合わせでね、ここで会うことになってるの」  お互いの待ち人から遅れて来るという連絡が入っていた。時間を余していた俺等は、偶然の再会を機に、暫く相席して待つ事にした。 「久鷺翔くんは3年生だよね。将来のこととか考えてる?」 「ん~周りの奴は公務員試験とか就活準備とか始めてる奴もいますけど、俺は特になんもです」  俺の大学生活は中間地点を折り返した。そろそろ就職について考え始めなければいけない時期だ。 「学祭委員の経験を生かして、企画なんかできる企業に就職出来たら良いんですけどね。勿論、ホワイトなとこで」 「そーだね。企業選びは大事だぞ」 「でも、その企業がブラックかホワイトかってどう見極めるんですか?」 「知りたい?」  益盧先輩は身をズイっと乗り出して訪ねた。頷く俺に、ふふっと笑ってみせる。 「そういう君は、是非ともインターンシップに行くと良いよ」 「インターンシップって職業体験的なアレですか?」 「そうそう。気になる企業の実態を肌で体感できるいい機会だ。企業選びに大いに参考になるんじゃないかな」  既に社会人になった先輩のアドバイスには説得力がある。インターンシップを経験しておけば、就職に対する不安は幾等か解消されるかもしれない。  話を続けようとしたところで、学祭メンバーの集団が入店してくるのが見えた。 「先輩、俺、これから学祭の打ち合わせなんで——」 「あ、そうなんだ」 「また解らないことあったらLINEで聞いて良いですか?」 「いいよ。いつでも連絡して」 「ありがとうございます!」 「また会おうね」 「はい! では失礼しました」  卒業した益盧先輩と会うのは初めてだったけれど、元気そうで良かった。学祭の仕事をテキパキと熟してきた先輩だ。きっと新しい環境にすぐに順応して、仕事も順調に進めているのだろう。  俺は先輩の元を離れ、別の席に仲間を呼んだ。
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