底は黒く、雲は白く

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 大学3年生で実行委員会の代表を務めた大学祭が無事に終了した。企画、準備、運営、片付け。俺は全力を尽くして取り組んできた。ギリギリの人数の役員で仕事を回して、無駄なく協力して行えたのではないだろうか。  俺のヘルプ要請に応じてくれた元カノは、まるでヒーローのように任務を終えて去っていった。大仕事を終えて閑散とし始めた委員会の中に、元カノの影はもう無い。「見直したよ」とは言ってくれたが、やはりそう上手くは行かないみたいだ。ワンチャンくらいの期待だったから、簡単に諦めはついたけれど。それでも、連絡は取り合える程度に不仲は解消できたから、結果良好と捉えられるだろう。少しでも成長できた自分を見せられて良かったと思う。 「私は木村先輩みたいにはなれないけど、力になれたなら良かったよ」  人には人それぞれの働き方がある。それは組織というものに対して、少なからず影響を与えるものだと分かった。だから組織の運営には、代表の舵取りが要となってくる。これは大学生活で学んだ大きな経験だった。  就活の幕開けと同時に、俺は迷いなくヘブンス食品コーポレーションの面接に臨んだ。就活は順調に進み、案外簡単に内定が取れてしまった。  単位も殆ど取り終え、就活を終えた大学4年生は遊びたい放題だ。実際、遊ばなかったわけではないが、俺は就職に向けて有益な勉強をすることにした。勿論、引き継いできた大学祭実行委員会の手伝いもした。俺が整えた甲斐もあって、委員会の運営は今年もスマートだった。後輩がきちんとやってくれているみたいで、俺は先輩として安心した。  益盧先輩は、会話の終わり際に「またいつか会おう」とよく言い残していたっけ。それが聞けたのは、俺がインターンを終えた日が最後だ。益盧先輩とは、依然として連絡が取れない。とうとうLINEを送っても、既読が付くことも無くなってしまった。  元カノがしていた心配が、現実になっていないといいけれど。「またいつか会おう」のその「いつか」は、俺が晴れて社会人となって勤め始めるまでお預けみたいだ。
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