双子は

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双子は

ありきたりな教室、ありきたりな生徒、騒がしい朝、教室にやって来たある双子の片割れはは自分の机の前に立ってため息を吐く、双子は違う教室と言うのにされることは同じで、机の上には花瓶に見立てたエナジードリンクの瓶に野花がまるで亡くなった人を悼むように飾ってある、 亡くなった人を悼むのであれば花瓶でも用意するものであるが、ここで悼まれているのは生きている名前の珍しい双子、那矢野眩夢(なやの まふゆ)真鶴(まなつ)どちらかの季節に生まれたからではなく、母と父が正反対の性格で正反対の物が好きだからだとか、亡くなった父は言っていた。 母に聞こうにも母は、自分達を産んで死んでしまっているので父の言葉しか由来を知るすべはなかった。 眩夢は机の上の野花と小瓶を片付けようと持てば、水を入れると言う煩わしい作業はしていなかったようで、中身も飲み干してあり、捨てるだけでいい事にまた、ため息一つして、コソコソ、クスクスと笑う教室の生徒達の中を通ってゴミ箱に向かう、ありがたくもない花と小瓶を捨てて、今日はこれだけでよかったと思う、落書きなんてされようものなら、それを消すのも一苦労で、しかも明らかなイジメのような落書きだと言うのに教師はそれを無視して、机を汚すなとしかりつける物だから、この学校はどうしようもないクズの集まりに見える、きっと隣の教室の真鶴も同じ扱いなのだろう。 何がいじめのきっかけか、それは学校のマドンナとなった。性格のねじ曲がった一人の女子生徒が、眩夢達の今や妹になった笑里(えみり)と言う女と仲がいいと言う事からだろう。 父が死に、未成年の自分達は自動的に父の弟夫婦に養われるわけだが、お金の管理は大人のする物だとかで父の遺産は根こそぎ持っていかれ、双子の家も乗っ取られ、それから双子の待遇がいい物かと言えばお察しの通り、目の上のたんこぶのような扱いで、もともと双子が自由に暮らしていた家は、双子の部屋と、トイレ、風呂などの必要最低限の部屋の行き来しかさせてもらえない、それは兄の娘達と言うだけでそうなのではない事を本人達もわかっている、 なにぶん見えぬものが見え、聞こえぬものが聞こえる二人であるので、亡くなった父と話していればそれが気味の悪い事だとあまり気が付けず、何も見えぬ何も聞こえぬ弟夫婦は不愉快そうな顔をして双子の家での自由を奪ったのである、まぁ親がそんな扱いをすればその娘がいい気になるのは当たり前で、加虐趣味でもあったのか、双子をさんざん馬鹿にしたり、物を壊してみたり盗んでみたりやりたい放題、けれど双子もやり返さない訳でもない、実は双子には少し違いがある、見た目はあまりにそっくりで眩夢が真鶴と言っても真鶴が眩夢と言っても誰も違いに気づくことないほど似ているのだが、その内に秘めた力は違う物だった。 真鶴はよく霊に好かれ真鶴に手を上げようものならば恐ろしい目に合う事になる、そして眩夢は手を触れずとも物を動かせると言う才能が有り、笑里の煩わしい悪口演説が始まれば近くの花瓶でもなんでも破裂させてやれば恐れおののいて逃げていく、だが怪我もさせぬし殺しもせぬ、死んだ父が寝言のようにつぶやく「手を汚さないでおくれ」と言う願いは守って、どんなイジメも不当な扱いも脅すだけで傷つけないように細心の注意を払っている、だがそんな仕返しは気味の悪さを助長させるだけで、双子の家での自由の制限を解くことにはならないのだった。
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