球体関節人形

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球体関節人形

眩夢がいつも通り幼稚なイジメに呆れながら一日を過ごし、帰りの準備をしていれば、真鶴が迎えに来る 「眩夢!ちょっと来て!」 何が楽しいのか、嬉しそうな顔の真鶴を見て、真鶴の一日は平和だったのだろうかなんて思ってみるが、そんなわけもないのだろう、他の生徒達はいつも通り双子を軽蔑しながら、帰って行っている、真鶴が幸せそうにしているのは愛の力という物か、真鶴には坂城先生が居るから、いつも眩夢よりは幸せそうだ、真鶴に呼ばれるまま教室を出る 「何を楽しそうにしているの真鶴」 眩夢がそう言えば真鶴がこそこそ耳打ちをしてくる 「坂城先生が私達にプレゼントがあるんだって」 やはり坂城先生かと思いながら楽しそうに自分の腕を引っ張る真鶴を見て自分も嬉しくなってついて行く、 美術室に行けば、美術部員がそれぞれ好きに作品作りをしている 「坂城先生!」 真鶴が坂城先生を呼べば、坂城先生が見ていた生徒の作品から目を離しこちらを見る そして顔を綻ばせて嬉しそうにする 「やぁ来たね、ちょっと待って」 坂城先生はそう言って美術準備室に行く、美術部員の生徒達はいじめとは関係ないが止める勇気もない子達で、でも実は真鶴の小説のファンだったりする3人、最近ではあまりいないおさげの女生徒が真鶴に声をかける 「真鶴さん、新作できましたか?」 「できてるよ!読む?」 「貸していただけたら嬉しいです」 女生徒がそう言えば先生に作品を見てもらっていた長めの髪の男の子が不満を口にする 「ずるいな、僕も読みたいのに」 それに茶髪の、随分派手な作品を作っている男の子が言う 「おれ2番目に読む―」 「おい!なんだよ!僕が最後か!」 早い者勝ち―なんて騒ぐ美術室にここだけは平和だなと安堵する そんな話をしていれば美術準備室から坂城先生が出てくる、坂城先生の格好はおしゃれと言えばおしゃれだが、随分質素な格好で、不格好な特徴的なメガネがその綺麗な顔を野暮ったく見せている、そんな先生が2体の綺麗な球体関節人形を持ってくる 真っ白な質素なワンピースを着た黒く長い髪を持つ二つの、目の無い人形が先生の野暮ったさを背景に、さらに美しく映えている。 「先生これは?」 真鶴が坂城先生に聞けば坂城先生がにっこり笑って言う 「球体関節人形を作ってみたんだよ、そろそろ君達は誕生日だろ、プレゼントにどうかと思ってね」 そう言って差し出された人形を二人はそっと持ち上げる、ほのかに自分達に似ている気もするその人形を見て坂城先生を見る 「二人をイメージして作ったのだけれど、どうかな?」 その言葉に大いに喜ぶのは坂城先生を愛する真鶴だ 「すっごく嬉しいです!ありがとうございます!」 真鶴は人形を大事に抱く 真鶴ほどとは言わないがもう祝われることを諦めていた誕生日を祝ってくれる人の存在に眩夢も喜ぶのだった。 「さて、その子たちは瞳もないし、洋服もその簡素な物だけなんだ、よかったら二人で仕上げをしてくれないかな」 そう言って先生はいくつかの人形の目玉が入ったケースを取り出した。 「目はこの中から好きなのを、服はそこにミシンも型紙も布もある、好きな物を使って作ってみて」 準備された物を見て眩夢は言う 「なんだか美術の授業みたいですね」 それに坂城先生が笑う 「たまにはこういうのも楽しそうでしょ?」 坂城がそう言えば、はい、と双子は言って二人で先ずは目を選んだ、眩夢が選んだのは菫色で真鶴は若草色を選んだ、そしたら派手な男子生徒が双子でも趣味全然違うよな、なんて言う物だからおさげの女生徒が当たり前でしょうなんて苦言を呈している。 目を入れた後は服だ、ここでもまた真鶴と眩夢の差が出た。どうやら眩夢は指先が器用でこういう創作が得意だったようで、綺麗な胸元のファーが特徴的なドレスができたのに対し、真鶴のドレスはどうにも不格好だった。 「私裁縫苦手みたい」 しょんぼりと落ち込む真鶴に坂城先生は、僕が手を加えても?と聞いてくれたので真鶴は坂城先生にドレスを託してなんとか着れる形には持って行けたのだった。 少し不格好だけどこれも味があっていいと言う事でほとんど真鶴の作品のまま人形に着せたのだった。 「名前は付けてあげないのですか?」 少し髪の長い男子生徒の言葉に眩夢と真鶴は目を合わせる、そして嬉しそうに名前を口にする 「この子は雪華」 「この子は陽華(ようか)」 菫色の瞳の雪華と若草色の瞳の陽華が誕生した瞬間だった
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