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噂の一人歩き
真鶴は子供が生まれるまで自宅謹慎となった。ショックのあまり何も言えず何もできず、連れて帰られるままに家に帰り、部屋に眩夢と共に押し入れられる、眩夢が廊下に聞き耳を立てていれば、父の弟は編集者に真鶴はどれほど素行が悪くどれほどどうしようもない子かを話、子供を妊娠したことを言って、自分でお金の管理をさせるには若すぎたと編集者に話、結局、若くして妊娠したことが信用問題にでも触れたのか、それでも作品は素晴らしいからと、子供の事は隠すと言う方針で話もまとまり、真鶴の作品の管理は弟夫婦がすることになったのだった。
だが今は、金を管理される屈辱よりも、何よりも坂城先生のあの言葉が行動が、あの目が真鶴の中を占めており、声を上げることも無くただこぼれる涙を拭うことも無く、ここに存在する事すら絶望でしかない真鶴を見て、眩夢は胸が締め付けられるのだった。
翌日学校に行けば真鶴はしばらく小説活動で休学すると教師は言ったはずなのに、小説で稼ぐためにコンテストの役員と寝て子供を作ったと言う噂が学校中に回っていた。
その噂は時間がたてば経つほどに人々の楽しい妄想の種となり、憶測空想が飛び回る、
その奇異の目は真鶴にそっくりな眩夢に向けられ、コソコソと話しているはずなのによく聞こえてくる
「コンテスト大賞とるために役員と寝たって」
「本を売るために編集長とも寝てるらしいよ」
「そこら辺の男とも寝てお金貰ってたって」
「眩夢だって・・・」
「そうよあの子も。」
「「「「だって双子だもんね」」」」
あぁうっとうしい、煩わしい、妬ましい、憎らしい、
何も知らない有象無象が勝手な妄想で自分の片割れを汚す
勝手な妄想で眩夢を見る
なぜこんな存在達が平和に暮らし、楽しく生き、穏やかに日々を過ごすのか、ただ自分達は少し人と違うところがあっただけなのに
たまたま母親がおらず、たまたま父親が早く見えない存在になり、たまたま見えないものが見え聞こえない者が聞こえ、たまたま不思議な力を持ち、
たまたま文の才能があり、人より早く愛する人を見つけただけなのに
私の妹はその愛する人に裏切られ、不名誉な噂を流されている、希望の子供さえも産めばそのまま回収されて他人の手に渡る、
どうして?私達がいったい何をした?ただ平和に暮らしたいだけなのに、ただ当たり前に享受されるはずの愛を幸せを貰いたかっただけなのに
苛立ちと憎悪と苦しさと悲しさでごちゃまぜな感情を抱きながら、昼休みに人のいない場所を求め、歩けばいつの間にか美術室の前に居た。
裏切者のいる場所、眩夢が少し開けて覗けばそこには何か描いている坂城先生しかいない、キャンパスに書かれる鉛筆に下絵を見て吐き気がした。その絵には真鶴と思われる人物がかかれているから、あまりの憎悪に、眩夢は勢いよく美術室の扉を開ける
「ま、眩夢ちゃん?」
驚いて眩夢を見て自分の書いている人物画を見てばつが悪そうに眼をそらし慌ただしく視線を留める場所を探している
「よくそんな物が書けますね」
眩夢の言葉に坂城先生はキャンパスを隠すように立つ
「貴方は!あの時!真鶴をストーカーに仕立て上げたんですよ!!」
眩夢の怒りに何も言い返せず、ただ床を見つめる坂城先生
「あんな裏切りをしておいてよくもそんな!あなたが真実を話さなかったから!真鶴は卑怯な売女と言われ!学校にも通わせてもらえず!子供も取り上げられるような話になり、一生あの最低夫婦に作家活動を監視されるようになって絶望の底に居るのに!!あんたは裏切った相手を思い描いている!なんでそんなことができるんですか!」
眩夢の言葉に坂城先生は唇を噛んで黙っている
何か言い訳しようと言葉を探しているのか、また目がせわしなく動いている、そして諦めるように口にする
「僕は彼女を愛している、だからそっくりな君達も見分けがつくんだ、」
「じゃぁ何故裏切ったの」
「裏切った?裏切ったのは彼女の方さ!僕に大丈夫だからと体を預け、子供を作らされた!僕はまだ子供なんていらなかったのに!なんでこっそり下ろしてくれなかったんだ!!」
余りに被害者のように彼は言う、子供を作らされた?大人として避妊をしなかったのは自分なのにまるで自分は悪くないかのよう、妊娠は父母共に責任があるはずなのに、まるで自分には責任は無いというこの身勝手な男を真鶴は愛していたのか
「真鶴はまだ高校生です、その真鶴に誘われたからと、断るのが大人のあなたの責任だったのじゃ無いですか」
そう言えばまだ被害者のように彼は言う
「愛する人に、僕のミューズに求められて断ったりなんて、できるわけないだろ!僕を狂わせてこんな蛮行に及ぶことになったのは僕のせいじゃない!」
「まだそんなことが言えるの?愛しているなら一緒に堕ちようとは思わないの?」
「堕ちてどうする?彼女を選んで画家一本なんて食べていけない、路頭に迷うだけだ、僕は絵以外の仕事なんてしたくない、子供なんていらない、彼女が本当に僕を愛していると言うのなら今すぐ階段から落ちてでも子供を流してくれ!!」
ガタ、と言う音が聞こえて後ろを見れば真鶴そして入り口にはマドンナがどういうわけか立っている
「やっばぁ」
マドンナはそれだけ言って立ち去る、この事実は今日のうちに学校中に広がるだろう
それは坂城先生にもわかる事で青い顔をして床に崩れ落ち、頭を抱える
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