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兄の忘れ形見
家に帰れば車がある、そう言えば今日は編集さんと今後の事を話すのだとか何とかで弟夫婦も居るのだった。
そう思いながら家に入れば、どこからかの電話に出ている妻が眩夢を見て、受話器を落す
「眩夢、まさか、高校の変死事件の犯人は・・・・」
「私だよー」
眩夢はなんでもないとでもいう様に、部屋に入る、妻は返り血で真っ赤な眩夢の猟奇的な姿に腰を抜かして動けないでいれば、また恐ろしい姿の眩夢が出てきて風呂に向かう、風呂場から鼻歌とお湯を溜める音が聞こえる、妻はなんとか深呼吸をしてゆっくりと立ち上がり、がくがくの足を支えながら、必死にリビングの夫の元へ向かう編集さんが来る前にどのようにお金の管理をするか話し合う内容を纏めていた夫は顔面蒼白の妻を見て何事かと駆け寄る
「おい、どうしたんだよ」
「あ、あなた!悪魔が!悪魔がついに動き出したわ!眩夢が学校中の生徒と校長を殺したって!」
あぁ何という事でしょう、不思議なことが起こるたびに、姪を怪しく思っていたがまさか本当に不思議な力があって虐殺して回るなんて、今まで何かが足かせになっていたのか、脅しのような物ばかりだったのについに殺人だなんて、次は我が身かと気付き廊下を見る
「殺される前に殺さなければ」
夫はそう言うと包丁を持ち出して、廊下に出る、すると、風呂場から「しっあわっせなら手をたたこう♪」なんて何とも今の状況には似合いもしない歌と手拍子が聞こえてくる、そっと風呂場に向かってみれば、どうやら眩夢は湯船に湯を張ってのんびり浸かっているらしい、これは簡単だと、延長コードを持ってきて、バレない様にドライヤーをつなぎ、勢いに任せて風呂場を開けてドライヤーを投げ込む、そうすれば、ごーーーぼちゃんと言う音の後に電撃の走るような音がして、似つかわしくない歌声はやんでいた。
やった!殺した!目の上のたんこぶだった姪をやっと始末できた。恐ろしいばかりで金にもならない姪、兄と一緒で不思議な力を持っていた姪
兄は不思議な力を持っていた。物に触れずに動かせる力、両親はそれをさぞ喜び、霊も見えるのだと言う兄を親戚の本家に預けた。
兄は見目もよく、人にやさしく、出来が良かった。それに対して自分は平均より少しいいだけ、両親の兄贔屓はすごいもので、週に一回は必ず会いに行くし、自分がどんなにテストでいい点を取っても兄は100点だった。兄ならもっと上手くできると全く自分を見てはくれなかった。
それは親だけでもなく、狭い町、本家も同じ地区にあるもので、2つ違いの兄は同じ学校の先輩で、それだけでも煩わしいと言うのに、女はこぞって兄を見る。
初恋の彼女も同じだった。兄と似たように、見えぬものが見える女性、柔らかな雰囲気でとても優しいが活発な人だった。自分はその人が大好きだったが結局は兄が選ばれ、自分が触れることは敵わなかった。
結果、妥協で結婚した女はプライドが高い浪費家で、それゆえに売れ残っているのだから仕方ないと貰ったが、生まれた娘も可愛げがない物になってしまった。一方で兄はと言えば最愛の人が最愛の子供を二人産んで死んでしまったとか、でもその子供達はいい子で、幸せだとか、どうしてこうも違うのか、なぜ自分ばかり割りを食うのか、嫁も完璧、子供も完璧、兄自身も完璧、何故自分ばかり凡庸なのか、そこに兄が死んだと知らせが来た、自分達の父も母も死に、
兄の15の子供達にはまだ後見人が必要だ、それに手を上げないわけがないだろう、自分は喜んで双子を預かった。だがその顔は兄にそっくりで最愛の人に似ているところと言えば口元だろうか、どうにも彼らの愛の結晶ですと言うのをまざまざと見せられて、
あぁこの子達を可愛がるなんて無理だと思ったところに不思議な力だ、
双子はきっちり兄の力さえも継いでいる、なんて憎らしいのか、迷惑で憎らしくて可愛げのない双子、だがその片方とはお別れだ、気が狂って自殺したことにすればいい、大丈夫、返り血を浴びた姿で帰ったと聞いた。気が狂ってどうやったか虐殺をして周り、家に着いたら自殺した。不思議なことはないだろう、さて、警察に連絡しなければと後ろを向けば、双子が大事にしていた人形の片割れが後ろに鎮座している、はて?先ほどまでは無かった気がするがと手を伸ばせば自分の指が全て折れる
痛みに叫びうずくまる、何故こんなことが!?姪は殺したのに!!
そう思っていたら、人形が浮き上がり風呂場にひた、ひた、と足音がする
次いでドライヤーが湯船から持ち上がり、床に落ち、ゴトッと鈍い音がしたかと思えば今度は自分の足がぐきっと曲がる痛みに吠えて仰け反った目線の先、風呂場から廊下を見れば妻が無残な姿をして死んでいる。
最悪な嫁ではあったが愛していないわけでは無かった。妻の死にそれを引き起こした原因を見る、人形はよく見れば、双子に似ている気がする。人形の近くにはいつの間にか濡れた延長コードが浮いている、シャワーヘッドも浮いていて、その口から水が出てきて自分にかかる、まさかと思って逃げたくとも足も折れている
ポンと言う音でも出るように軽く濡れた延長コードが彼を襲ったのだった。
漏電防止で止まるはずのブレーカーは止まることも無く、弟から出火する、その火はまるで罪をも燃やす様に燃え続ける。
燃えさかる炎の中、人形は双子の部屋に帰って行ったのだった。
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