下校の哲学

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家の前の寂しい路地は、 たまに網野さんのお爺さんが 竹箒で掃除をしているのに出会うくらいで 滅多に人に会う事はない。 学校に向かって突き当りは丁字路で、 細いが意外と往来は賑やかな通りに面する。 一旦左に曲がると 車やらバイクやらが引っ切り無しに行き来する。 絵具箱を肩に、傘を腕に掛けただけの 自分のヘンテコな姿の事は忘れて、 細心の注意で道路の端の線からはみ出さないように 綱渡りのように足を互い違いに踏み出して慎重に歩く。   横手の住宅街には大好きな咲ちゃんの家がある。 咲ちゃんの顔を思い浮かべた途端、 後ろでチコが “キャン” と吠えた気がして、寛ちゃんは肩をすくめた。 犬が苦手と言うのではないけれど、  以前、商店街で 丸くなった猫を可愛がろうとして 手を差し出したら、 掌を引掻かれた事がある。 それ以来、動物そのものが怖くて仕方ない。   通学路には、危険が一杯だ。 気を引き締めなければ。 「銀座通り」に突き当たる。 銀座通りは、 駅に向かう人や、買い物の奥様で人通りが絶えない。 寛ちゃんは、 パンや豆腐や立ち食いうどんの匂いがする 「銀座通り」が大好きだ。 お祖母ちゃんは、 「立ち食いうどんなんか絶対に行ってはダメ」 と言うけれど、 寛ちゃんは、大人になったら、 こっそり、あそこでうどんを食べるんだと、 心に決めている。 さっきの模型屋さんでは、 ショーウィンドウの中のザクが 心なしか 小さく、申し訳なさ気に見える。 寛ちゃんだって憂鬱だ。
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