下校の哲学

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立ち食いうどん屋さんの前の スクランブル交差点を渡り 商店街を駅と反対の方に進むと そろそろ学校が見えてくる。 いつもは友達と一緒だが、今日は違う。 赤信号を緊張して、 モジモジしながら待っていると ──おや?── 向こう側に これまた寛ちゃんなど比較にならないくらい ヘンテコな格好のおじさんが立っている。   首から足まで黒いタイツで包まれ、 ビニールの手袋を嵌めて ビニールの長靴を履いて 腰には不必要に大きなベルトを着けた そのおじさんを気にすることなく みんな、同じように信号を見つめている。 ──みんな、気付いてへんのかな?── 幼稚園の頃にテレビで観た事がある。 いつもすぐにやられてしまう、あの人だ。 ──でも── 顔には何も被っていない。 髪の毛は お父ちゃんみたいに 綺麗に整っている。 ──「あいぱー」っていうやつやな── ──あと「ちっく」とかっていうのを              着けてはるわ── 寛ちゃんは 大人になったら 「あいぱー」はしたく無いが、 「ちっく」は着けてみたいと思う。 お母ちゃんの口紅みたいで 面白そうだから。 この前、 お母ちゃんの口紅を 塗っていたら お母ちゃんに見つかった。 不本意にも お母ちゃんには 大笑いしながら怒られた。 恥ずかしくて あんな事はもう嫌だから、 「ちっく」だって、 大人になってからにしようと思う。
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