1:明けない夕暮れの中で出会った運命

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 「……あ、ありがとう……ございます」 雅により助かったが、この人も見た目があやかしである上に、内に毒を秘めているかもしれず信用が出来ないので、つい恐縮して声が震え小さくなってしまう。  「別にアンタを助けるためじゃない。アイツがまた悪さをしないように止めただけだ」 走って逃げていくあやかしを見届けると、雅は少女に目もくれずに背を向けて、歩き始めた。  ――この人はまだ信用出来ない。 ここがどこだかも分からない、目が覚める前の記憶は曖昧で自分の名前すら思い出せない。それにまた、あやかしに襲われるかもしれない。 色んな想いが少女の中で巡る。 元の世界では、育て親の叔母やその実子(じっし)から虐げられており、これぐらいの記憶しか今は思い出せない。幸せだった記憶なんて何一つなかった。だからこそ、ここに来た時は早くこの命が尽きないかと期待もした。 けれども今は、少女を虐げる人はいない。 なのでもしかしたら、少しでも幸せになれる道があるかもしれない。 他に色々と情報が欲しいとも思った少女は、背を向けて歩き始めた雅に、勇気を出して話しかけた。  「み、雅さん!待ってください!」 少女の声に反応した雅は「僕の名前を気安く呼ばないでくれ……」と言いながら、少女の方へ振り向いた時であった。
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