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「俺としてる時、七海が時々泣いてたの知ってる」 「……え?」 「七海にとっては嫌で辛い関係だったのかもしれない。七海の優しさに甘えて、たくさん我慢させてごめん」 そう自分を嘲るような笑みを浮かべる悠真は 私の背中に回した腕を微かに震わせた気がした。 「七海は俺のこと好きじゃなくて、多分ただ慰めるためにやってくれたことだって分かってる。だけど」 悠真はそう呟いて 私を抱きしめる腕をそっと緩める。 それから私の顔を覗き込んで 真っ直ぐな目で静かに続けた。 「美羽ちゃんの代わりなんかじゃない。俺は七海のことが好きだよ」 その言葉は 信じられないくらい 多分生きてきた中で1番、甘美な響きだった。 七海のことが好きだよ。 私の思考を破壊するのに 十分な威力を持っていた。 夢かもしれない。 そう本気で思ったし、それならそれでもよかった。 本当の気持ちは言わないと決めていた。 だけど、もう こんなに大きくなった気持ち、抑えてなんておけないよ。 私は目の前の悠真に抱きつくと 驚いたように小さく息を呑んだのに気付かぬふりで小さく呟いた。 「……わ、たしが」 「え?」 「今までどんな気持ちでいたか知らないくせに」 そうぽつりと放った言葉に 悠真がただ黙って耳を傾けてくれるのが気配で分かる。 私は悠真の胸に頬を寄せて 顔を上げられないまま、静かに続ける。 「悠真が美羽ちゃんに一目惚れするより前から、私はずっと悠真のことしか見てなかった」 「……え?」 感情が昂る。 心がどうしようもなく震える。 気付けば意識と関係なく 両目から再び涙がこぼれ落ちていた。
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