アクア色宝石キャンディの夜

あなたにお願い

昔々あるところに一人の妖精がいました。

今年もタノシイハロウィンの夜がやって来る。あなたにひとつ、お願いがあるのです。

これは青い宝石キャンディの話。

毎年ハロウィンの夜になると、それはそれはキレイなあめが降ります。
赤、青、黄色、緑のキャンディ。ほら、キレイな飴でしょう？ それを降らせているのは吸血鬼のお嬢様。
知っていましたか？ おや、知らない。では、その枯れた頭に叩き込みましょう。
ハロウィンには六種の宝石キャンディの雨が降る。降るのです。
ガーネット
アクアマリン
スフェーンにアンバー
ジェイドにエメラルド
キレイで美味しい宝石キャンディ。
お求めはあちらのお店まで。

そう、いつもならその店では宝石キャンディの妖精たちが騒いでいるのです。いつもであったなら。

あなたにひとつ、お願いがあるのです。
この世界の何処かにいる青い妖精を探してきてはくれませんか。

店頭に並んだ六つの大きなビン。その中の、青いキャンディが入っているはずのビンが空っぽなのです。
あらあら、一体どうしてしまったのでしょう。
残った妖精たちに訊ねても知らないと言うばかり。そこで私、店主に訊ねたのです。

「アクアマリンを何処へ隠した。今すぐ持って来い」

脅してなどおりません。

宝石キャンディというものは色によって作り方が変わるそうです。スフェーンとアンバー、ジェイドとエメラルド。この四つは同じ作り方です。ガーネットにはガーネットの、アクアマリンにはアクアマリンの作り方があるのです。

アクアマリンという宝石キャンディは名前の通り透き通る青色をしています。本当であったならどのキャンディよりも作りやすいキャンディのはず。
それなのに今年に限ってこうも姿を消すなど異常なこと。他の妖精さえ知らないなどあり得ません。
あなた、青い水の作り方を知らないでしょう。
ほら、それが答えなのです。

世界は不思議で不思議で不思議に溢れています。その中でも「森のリス」に続いて有名な話が「青い水」です。
いいえ、青い水自体は知られていないかも知れませんね。ですがその素になった話は誰もが知っているもののはず。
あなた、青い水の話を知らないでしょう。 ならばアクアマリンという宝石キャンディが消えても仕方がないのです。
しかし。それでは私が困るのです。
毎年キャンディを買い占め、空から降らす吸血鬼のお嬢様がご立腹でございます。あの方の赤く咲き乱れる笑顔を見ることが私の楽しみだったのに、ああ、なんということ。
なんとしてでもアクアマリンの宝石キャンディをハロウィンまでに手に入れなくては。

だからそこのあなた。責任を取ってアクアマリンの原料となる青い水を大量生産なさい。
無茶は言いません。あなたが百人に言って、言われたお友達が百人に言って、その全員で作ればあっという間ではありませんか。
さあ、とっととおやりなさい。