プロローグ

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プロローグ

『人には生まれた時から決められた役目があって、その役目を果たすため、さまざまな試練が待っている』  私が成し遂げないといけない役目は、きっとみんなを幸せにすることなんだと思う。  だから私のこの選択は間違っていない。  私はあなたのそばで生きることはできないけれど、あなたの本当の願いを叶えてあげられないけれど、あなたが生きてくれるのならば、私はこの気持ちを捨てるこができる。  でも最後はあなたの寝顔を、目に焼き付けさせて。  愛してるわ。私の愛しい人。  そっと頬に触れる。  もうこの人に触れられないかと思うと、胸が苦しくて嗚咽が漏れそうになり、両手で口を塞ぐ。    今までも、これからも、彼の人生に……彼の記憶に、私は存在しない。  本当にそれでいいの?  もう何十回も自分に問いただしたこと。  そしていつも答えは同じ。  彼の全てが、私の全て。  彼の存在が私の全て。  だから……どうか私のことは全て忘れて、幸せになってね……。    そっと彼の額に掌を掲げ、心の中で唱えた。  私との記憶だけ消し去ってしまう呪文を。
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