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たわいない話しをしながら坂道を登る。登り切った先の赤い屋根の二階建てが俺んちだ。すぐ横にある倉庫がうちの工房である。
「さあどうぞ。遠慮せずに入って」
「お邪魔します~」
「おや? 遥の友達かい? いらっしゃい」
玄関でじいちゃんが靴を履いていた。
「は、はい! 神宮司 司といいます。よろしくお願いします!」
司が几帳面にあいさつをしてて思わず笑ってしまった。
「じいちゃんまだいたんだ?」
「なんじゃ。わしがいたら悪いんかいの?」
「ははは。いやぁ。仕事場に行ってるかと思ってたからさ」
「ふ〜ん。まあいい。先に行っとるよ。お前が友達連れてくるなんて珍しいのぉ。まぁ今日はゆっくり来たらいいで」
じいちゃんがにやにやしながら玄関を出て行った。なんだあの笑い。俺だって友達ぐらいいるって〜の!
「はぁ〜。なんか緊張したぁ」
「はは。ここでじいちゃんと二人暮らしなんだ」
「え? そうだったのか。突然やってきてよかったのか?」
「いいよ。それより食べようよ」
俺は二階の自分の部屋へ司を連れてあがった……が! しまった。部屋に入るとデザイン画が散乱していた。そういえば昨夜は遅くまで描いてて、朝そのまま飛び起きたんだった。
「これは? はるかが描いたの? 花火?」
「わ〜っ! っと。まだ人に見せられるもんじゃねえんだ」
あわててガサガサとその辺に片寄せると、司がすでにその一枚を手にしていた。
「すごいっ。綺麗じゃないか」
「え? ほ、ほんとに? お世辞じゃなく? そう思うか?」
「うん。よかったらもっと見せて欲しいな」
「そ、そうか? へへ。わかった。まだ試作にもまわしてないんだけど見てくれるか?」
結局、誰かに見て欲しかったのだと今更ながらに気づく。
「試作って? もしかして」
「ん? あぁ。うちは花火作ってんだ。じいちゃんは花火職人なんだ。隣に工房があるんだよ」
「うそっ。すげえ~!」
「へへ。俺があの稲荷神社に通うのはそれもあるんだよ。花火を見るときってみんな『たまや〜』とか『かぎや〜』っていうでしょ?」
「うん。聞いたことあるよ。ひょっとしてあの狐たちが咥えてるやつか?」
「そうそう。昔から花火師にとってお狐様は商売繁盛と火除・火防の神さんなんだ。だから敬って大事にお参りしなきゃって思うんだ」
「……そうか。それで……気に入られたのか」
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