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6
「親父さんっ!」
それは突然だった。いきなりじいちゃんが倒れたのだ。
「救急車だ! 救急車を呼べ」
「じいちゃん! じいちゃん、しっかりして!」
「親父さん、最近無理しちまってたからなあ」
「え? どういうこと?」
「それが……」
年に一度、河川敷で花火大会が行われる。そこでは毎年うちの花火が使われる。じいちゃん渾身の花火玉は大きさも色もきれいだとかなり評判が良い。今年はかなりの大玉を用意していたらしく一年半がかりで作っていた。小さめの玉がだいたい二か月くらいだからどれだけ丁寧に作っていたのかがわかる代物だ。花火大会まであと一週間。最後の調整にずいぶんと神経を使っていたようだ。
「あとのことはお前に任せた……頼んだぞ」
じいちゃんは病院に運ばれる前に俺にそう言った。
じいちゃん、そういう悪い冗談はやめてくれよ。俺みたいな青二才にこんな大役出来るわけないじゃないか……。
「坊ちゃん、ほとんどの花火は確認作業だけだ。あとはなんとかなるよ」
そうだ。なんとかしなくちゃ。俺は職人たちと力を合わせ最終確認に励むことにした。
「そうか。それでジョギングに来なかったんだな」
心配して司が立ち寄ってくれた。
「うん。今日はごめん。しばらく行けないかも」
「しかたがないね……『人の病は我には専門外じゃからな』……なぁんて。は、はは」
「ねえ。司ってさ。ときどき独り言、言うよね?」
「そ、そうなんだよ。はは。気にしないで。それより俺も手伝わせて。花火は作れないけどご飯は作れるからさ。洗濯もできるよ。ちょうど夏休みだし暇してたんだ」
「本当か? ありがとう! 後でなんでもするからこの一週間だけ手伝ってくれ」
俺は素直に喜んだ。猫の手も借りたかったからだ。最近は曲に合わせて花火を打ち上げたりする。そのタイミングも計算しないといけない。だから編曲作業なども必要だったのだ。司は音楽の趣味がよくいろんなCDや周辺機器についても詳しかった。
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