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第5.5話 我慢できずにお問い合わせをして
お問い合わせは手紙のマークでヘルプボタンを押すと現れる機能だ。
ポストのマークなのだが、内容はゲームでの不具合や意見要望を運営に報告する機能だ。
世界観ぶち壊しだが、今はそうも言っていられない。
怒りが収まらない。
「うわ。それ使う人本当にいるんですね」
「ユーザーの当然の権利だぞ」
「わかりました。『お問い合わせ』ですね。要は運営に手紙を出せばいいわけですね。はいはい。それで、なにを問い合わせるんです?」
アルボは紙とペンを取り出した。
「タイトルは『チュートリアル終了時のプレゼントについて』だ。内容はこうだ。『背景運勢様。いつも楽しくゲームを遊ばせてもらっております。本日は意見・要望がございます。現状始めたてのプレイヤーがチュートリアル終了後に10連ガチャもできないというのは昨今のソシャゲ事情を考えるとケチすぎると言わざるを得ません。もっと初心者が快適にプレイできるように、常にゲーム開始の時点で大量のジェルを配布したり、強力なキャラを交換できるチケットとかを入れておくようご検討をお願い致します。今後もゲームが楽しく遊べるように期待しております』と書いて送ってくれ」
「ふむふむっと。なんだかかっこいい感じの文章で、よく読むと教養の無さがにじみ出てて味のある文章になっていますね」
「とっさに考えたからね!? 修正してもいいならそれなりの文章も書けるけど!?」
「まあどうせ読まれるわけでもなし、これでいいんじゃないでしょうか。意味は通じてますし」
「お前も結構言うね」
「でもこれって問い合わせじゃなくて要望とか意見ですよね?」
「このゲームでは全部ひっくるめて『問い合わせ』からしかできないようになってるんだよ」
「あ、本当だ。さすが詳しいですね。でもまあどうせ返事は同じ文面しか来ないんですけどね」
「何だよアルボ。お問い合わせ送ったことあるのか?」
「ええ、でも内容は操作方法がわからない、とか以前のアカウントが紛失したとかどうとかそういう物が多かったですけど」
「アカウントとかは流石に言うなよ。俺が言うのも何だけど、お前が言うと世界観がぶっ壊れる」
「すみません。つい」
「それで? 運営の返事ってのはどんな感じなんだ?」
「アカウント……じゃなかった。なんて言えばいいんでしょうか身分証明? 的なものに関してはIDと名前と課金履歴を確認して……」
「ストップ。世界観が、というかお前の存在が危うくなる。その話はいい。もっと何ていうか要望的なものの問い合わせの返事が知りたい」
「ああ、こうです。『貴重なご意見ありがとうございます。必ず開発チームに伝えて検討させていただきます。※ただし必ずご意見が反映されるわけではないことをご了承ください。また、この返信の内容は公開されませんようよろしくお願い申し上げます』って返事です。ほぼ全て」
「まさにテンプレ。読んでねえなこりゃ」
「ええ。この悲しいお返事を届けるこちらとしても心が痛いですよ」
「アルボもつらいんだな。やっぱり文句言われたりするのか?」
「いえ、文句言われても聞き流すからいいんですけどね。逆にこの運営のテンプレの回答を『あ、ちゃんと検討してもらえたんだ。よかった!』って喜ばれている様子を見たときのほうが胸がつまりますね」
「なるほど。お前、冷たいようで、いいやつのようで、なんかよくわかんねえな。俺は好きだけど」
「まあ妖精族なので、人間とは少々感覚が違うのかもしれませんね」
アルボは手紙をしたためるといたずらそうに笑ってみせた。
本当に話の分かる妖精である。
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