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第7話 リアルな闘いを目の当たりにして
ナベダヌキ。
体が鍋でできていて、まるで鍋からたぬきの頭と足と尻尾が生えたようなモンスター。
見た目通り硬く、殴ると金属音がする。
主な攻撃は体当たり。
キャノンイーターより一回り大きく、キャノンイーターと同じように目がイっている。
「実際に見るとかなりでかいな」
あんなの体当りされたら下手すりゃ死ぬんじゃねえのか。
ほぼ鉄の塊じゃん。
つぶやいた俺をリーゼが肘でつついてきた。
「何当たり前のこと言ってるのよ。それより、早く、し、指示をちょうだい!」
リーゼは杖を構えて、すでに戦闘態勢に入っている。
さっきまでとは違ってちょっと緊張している様子だ。
「もちろんバブルウェーブだ。魔法攻撃でゴリ押しするだけで勝てるはずだ!」
「わかったわ。聖なる水の精霊よ……『バブルウェーブ!』」
杖の先から七色に光る泡がナベダヌキめがけて放出される。
ナベダヌキは体を鍋の中に引っ込めて防御の体勢『鍋にこもる』状態になってそれを防ぐ。
『鍋にこもる』は物理攻撃にはそれなりに効果的な防御だが、魔法攻撃であればダメージがしっかり通る。
はずだった。それは間違いなかった。
しっかりとダメージは通っているようだったのだがナベダヌキはワンパンすることができなかった。流石にボスである。
「し、しまった!」
俺は重大なことを忘れていた。
『強化』だ。
このゲームは敵を倒してもキャラクターは成長しない。
通称『巻物』と呼ばれる専用のアイテムをつかって経験値を上げないとレベルアップしないのだ。
いくらSRでもレベル1では火力は十分生かされない。
本来ならチュートリアルで強化をすることになるのだけどそれをすっかり忘れていた。
「きゃあああああっ」
リーゼがナベダヌキの体当たりを受け、その小さな体はいとも簡単にふっとばされてしまった。
人間が宙を舞うのを見たのは初めてだった。
ゲームの中ではよく見る光景だけどリアルに見ると背筋が凍る。
どちゃっと鈍い音がして地面に叩きつけられる。
死んでないだろうな!?
「リーゼ!!!」
俺が駆け寄って倒れているリーゼを抱き起こした。
よかった生きてる。
「う、うう。だ、大丈夫よ。だけど、次に魔法を使うまでにはまだ時間がかかるわ」
健気にも痛みに耐えているリーゼ。
よかった、骨が折れたりはしていないようだ。
でもすげえ痛そう。
ゲームではただノックバックする演出があるだけだったのに、実際は服は汚れ、顔の一部が赤くなり、擦り傷もできていた。
俺のせいだ。
こんな小さな女の子に怪我をさせてしまうなんて。
俺にはよくわかっていたはずだ。
リーゼは魔法攻撃に特化している後衛職だ。強力な魔法攻撃と引き換えに物理攻撃に対する防御力が極端に低い。さぞ痛かったことだろう。
俺のせいだ。
俺の持っていたキャラなら簡単に倒せてしまう相手だから完全に油断していた。
もっと慎重に、ちゃんと考えれば俺ならわかったはずだ。
気絶したってやり直せばいい、と高をくくってしまっていた。
たかがゲームだと舐めていた。
なんて馬鹿なんだ。
もっと『リーゼ』のことを考えるべきだった。
今目の前にいるリーゼは一人の意思を持った存在なんだ。
ゲームのキャラクターやデータじゃない。
SRリーゼではなく『リーゼ』だ。一人の女の子だ。
その証拠にリーゼは俺の腕に重みと体温を、耳に呼吸音を感じさせている。
もっと真剣に、もっとリアルに考えるべきだったんだ。
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