10人が本棚に入れています
本棚に追加
第8話 ビジターの仕事ってなんだったかを
「すまないリーゼ。おれの判断ミスだ」
「そ、そんなことないわよ。あたしならまだやれるわ。これくらい、全然平気よ!」
リーゼは俺の腕を離れ、立ち上がり、再び杖を構えた。
ナベダヌキはすでに次の攻撃の準備を始めている。
次の一撃を放つ前に最低でも、もう一度敵の攻撃を受けることになるだろう。
いくらリーゼが後衛職で体力が低めとは言えたった2発ではやられはしない。気絶することはないが、痛みはある。
あんな攻撃をこれ以上リーゼに受けさせることなんて俺にはできん。
「こうなったら、俺が戦う!」
俺はリーゼの前に立ち、太めの枝を拾って構えた。
リーゼが耐えられたんだ。
俺だって一撃くらい耐えてやる。
「無茶ですよ!」
姿を消していたアルボが俺の横に現れて叫んだ。
「あなたは設定通りなら、この世界では召喚の儀が行えるだけの普通の人間です! 下手すれば死んじゃいますよ! 彼女たち扉人なら大丈夫です。設定上絶対に死んだりしません!」
扉人。
そうだったな。
ガチャキャラたちは扉の向こうから召喚されたこの世界にとっても異世界の存在だ。
だから特別な力を持っているし、敵の攻撃を受けても気絶で済むのだ。
「だけどそれってゲームの『設定』だろ? これ以上リーゼを痛めつけさせるような真似はできん! それに俺だって異世界人みたいなもんだろ」
俺の予想ではあと1発バブルウェーブを打ち込めばナベダヌキは倒せる、はずだ。魔法攻撃のダメージはたしかにきちんと通っているのだから。
だが、そのためにはナベダヌキの攻撃をあと1発は食らうことになる。
バブルウェーブは強力な範囲攻撃ゆえに連発はできないのだ。
だから俺がリーゼの代わりに敵の攻撃を数発受けることができれば勝てる。
【警告:不正な操作が検出されました!】
名前の入力時に聞こえた不快な機械ボイスが響いた。
俺の体が強制的にリーゼの後ろへと下げられていく。
なんだこれ、何の力だ。
俺が前に立って戦うことはできないのか?
俺は後ろから指示を出すことしかできないってことかよ。
くそ。
ネットでは冗談交じりにビジターは自分は安全なところから女の子たちを前に戦わせるだけのチキン野郎だなんて言われてたが。
自分が代わりに戦うことができないことがこんなつらいとは。
ビジターは何もできないのか。
いや、何もできないわけじゃなかったはず。
しっかり思い出せ。
焦るな俺。
確かビジターにはビジターの仕事があるはずだっただろ!
最初のコメントを投稿しよう!