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第9話 思い出して放った星の必殺技
「て、撤退しましょう。『撤退する』とボクに言ってください! そうすれば一旦戦闘から離脱できます! 体制を立て直しましょう!」
アルボが泣きそうになりながら言う。
確かにそれも一つの手だ。
引き際を判断するというのもビジターの大切な仕事だ。
だけど、ビジターにはまだやれることがある。
チュートリアルを飛ばしてしまったせいで、レベル上げを忘れちまっていたがもう一つ、思い出したことがある。
「いや、ここは『ビジタースキル』を使う!」
アルボはハッとして。
「そ、そうか! その手がありましたね!」
ビジタースキルというのはその名の通りプレイヤーが使うことのできるスキル。
一日3回までという制約があるがプレイヤーの成長や装備に合わせて様々なスキルを使うことができる。
回数制限故に強敵と戦うときに使うのだが、ゲームをプレイしていた時は俺のキャラクターは強くなりすぎており、ビジタースキルを使うことがほとんどなくなっていたもんだからすっかり忘れていた。
ビジタースキルの『チャージ』を使えば本来なら数ターンかかる任意のキャラクターの必殺技のゲージを即座に貯めることができる。
「アルボ! ビジタースキル発動! 『チャージ』だ! 対象はリーゼ!」
「わっかりましたっ! ビジタースキル『チャージ』発動、対象SRリーゼ!」
俺の体が淡く金色に光る。
その光がリーゼの方へと吸い込まれていく。
「な、なにこれ。あたしのなかに力が流れ込んでくる!」
リーゼの体から青いオーラが立ち上る。
ブルファンにおける必殺技使用可能状態である。
「リーゼ! メガ・バブルウェーブを!」
「わかったわ!!」
リーゼはすかさず呪文の詠唱を始める。
目を閉じ、集中する。
「聖なる水の精霊よ。大いなる力を我に分け与え給え……!」
全身を包んでいた青いオーラが杖の先へと収束していく。
リーゼの周りに旋風が巻き起こり、ツインテールがけたたましく暴れる。
青く輝き、輝きはやがて杖の先端へと収束する――!
ナベダヌキの攻撃『たいあたり』が発動し、詠唱中のリーゼに巨大なナベがガランガランと激しい音を立てて転がってくる。
間に合ってくれ!
リーゼが目を開く。
青い光が輝き、青白く、練り上げられた魔力が杖の先端にすべて集まった。
『メガ・バブルウェーブ!!!』
杖を振り下ろす。
眩い光が弾け、無数の七色の泡がマシンガンのように吹き出した。
泡の一つ一つが大玉ころがしで使う大玉ほどの巨大さ。
リーゼはその反動に飛ばされそうになりながらも両手で必死に杖を握る。
リーゼに体当りすべくこちらへ突進していたナベダヌキに向かって、七色の泡が激流となって襲いかかった。
泡が何もかも包み込み押し流していった。
ナベダヌキの姿は消滅した。
辺りには小さなシャボン玉が星のように漂っていた。
七色の泡が光を反射した幻想的な光景に口を閉じることも忘れて見惚れた。
この世界ではありきたりということもないようだ。
アルボも同じく口を開いたままだった。
ぺたん、とリーゼがその場に座り込む。
「ナイス! よくやったな! リーゼ!」
「すごいですリーゼさん!」
俺とアルボがリーゼに駆け寄る。
リーゼはかなり力を使ってしまったようで、片目を開けられないまま、よろよろと立ち上がると、こちらを向いて腰に手を当てた。
いつものポーズ。
登場時と同じリーゼの代名詞のシルエット。
「どう? あたしが本気を出せばこんなものよ!」
勝利の決め台詞。
汗だくで泥だらけで――満足げな笑顔だった。
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