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第2話 ビジターとなった俺は
「なるほど……。にわかには信じられませんが、この世界はあなたの世界のゲームであり、あなたはその世界から意識も一緒に転送されてきた、と。そういうことなのでしょうか」
「そうだ」
「うーん。ビジターとどこが違うのかよくわかりません」
ビジターというのはこの世界のプレイヤーのことだ。
戦う力は持たないが仲間を呼び出したり、バトルで指示を出したりする事ができる――という設定だ。
ややこしいことにビジターはこの世界にとって異世界からの訪問者ということになっている。
つまりは今の俺はまさにビジターそのものなのだ。
「それで、この世界がなくなるっていうのは一体どういうことなのでしょう?」
アルボはNPCっぽさは完全に抜けていた。
アルボというキャラクターの意思がそこにあるかのように語りかけてくる。
「まだ噂の段階だが、このゲームはサービス終了するかもしれない。情報元によれば3か月後に最後のイベントが開催されて、その後にサービス終了するんだそうだ」
「サービス終了っていうのがこの世界の終わりを意味しているのですね。ということは、もしかしてあなたはそれを阻止するためにこの世界に送り込まれてきたということですか!?」
アルボは期待を込めた目で羽を嬉しそうにばたつかせながら俺を見る。
ビジターはこの世界に復活した精霊王を倒すというのが当初の目的なわけだからそういう期待を持たれるのは当然だけど。
「いや、多分違う、と思う」
「え。じゃああなたは一体なにものなんです?」
それは俺が一番知りたい。
「わからん」
と答えると、そうですか、とアルボはあまり興味がなさそうに呟いた後。
「で、どうします?」
やる気なくアルボが返してきた。
「どうするって?」
「ガチャですよ。ガチャ。最初のは無料で引けますから。引くんです? それとももうここからは勝手に行動されますか? だったらボクは次のビジターさんを案内しにいかないといけないので」
俺が救世主ではないとわかると、とたんに冷めた態度。
こいつこんなやつだったのか。
あとガチャって言うな。世界観が壊れる。
一応このゲームでは『召喚の儀』だったはずだろ。
異世界からの救世主を召喚するという一回300円相当の石が必要な。
さっきまでの営業スマイルはどうしたといいたいところだが、アルボには俺のお気に入りの声優が使われているので、実は俺はこいつと話しているだけでも結構楽しかったりした。
「そうだな。確か最初はSR確定だったよな」
「そうです。ボクはそれを見て……コホン」
アルボは咳払いをして営業スマイル。
「『おめでとう! すごーい! とってもレアな強いキャラを手に入れたね! じゃあ早速パーティに編成してみよう!』って言うのが役目なんです」
と鼻にかかった可愛らしくあざとい声を出した後、ニヤリと笑ってみせた。
「そうそう。そもそもSR確定だからすごくともなんともないのにな」
「ですね!」
二人して声を出して笑ってしまった。
※ガチャ
日本のソーシャルゲームに根付いた悪しき文化。欲しいキャラを1回あたりが安い値段のくじで当てるというシステムで一見運が良ければ得をするように見せかけて、実はとんでもない値段で手に入れる羽目になるという悪魔のシステム。滅ぶべし。
※石=ジェル
ブルファンにおけるゲーム内通貨。正式にはジェル。プレイヤーは石と呼ぶ場合が多い。ちなみに値段は日本円で1円=1ジェル。ガチャは1回300ジェル。ブルファン当時のガチャの値段としては平均的。
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