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第3.5話 初めてのガチャを引いてみたら
確かに。
ゲームのメニューボタン的なものはどこにもない。
そもそもおれは部屋着のままだし、操作するコントローラーもスマホもなにもない。
つーかボタンってなんだよ。
メニューってどうなってんだよ。
「アルボがやってくれたりしないの?」
「ボクにはそんな能力はありませんよ」
「え? じゃあリセマラできないの?」
「さあ……」
これは困ったぞ。
リセマラはソシャゲの基本中の基本だと言うのにそれができないってマジか。
ソシャゲは効率を追求するゲームだというのが俺の持論だ。
同じ強さならより早く、より低コストで使えるものを狙うのだ。
最初のガチャはSR確定で手に入るキャラも初期キャラに絞られている。
どれを引いても最初はそれなりに強いのだがその中でもさらに優秀なキャラというものがある。
できればリセマラランキング1位のSRキリアか2位のSRジュリアーノあたりを引きたいんだが……。
いや、そんなことよりも。
そもそもこれがもし夢じゃなかったとして。
ゲームの中に転移なり意識転送なりされたとして。
このゲームの中で死んだりしたらどうなるんだろうか。
「やめときます?」
「いや、引くよ。引かせてくれ」
引かなかった場合誰が戦うのか。
このゲームはロールプレイングゲーム。
戦って敵を倒さなければならない。
そしてビジターというプレイヤーには戦闘能力はなく、召喚した異世界からの戦士――扉人たちに代わりに戦ってもらう必要がある。
少なくとも俺の知ってるブルファンはそういう設定のゲームだ。
「わかりました。では召喚の儀を行いますね!」
アルボが俺の周りをくるっと一回り飛ぶと、俺の周りの世界がぐにゃりと歪んだ。
すぐに世界が暗転し、今度は宇宙空間のような世界が現れる。
俺はそこに浮かんでおり、眼の前に金色の扉が現れた。
ゲームで見たことがあるガチャ画面だ。
こんなふうになってたのか。
「では、どうぞ」
「お、おう。これ開ければいいのか?」
「いいえ。ノックしたら向こうから開けて出てきます」
俺はSR確定演出発動中の金色の扉をノックした。
ゆっくりと扉が開き、中から光があふれ、うっすらと人形のシルエットが見える。
光が収まると同時に甲高い声が聞こえた。
「あたしはリーゼ。ふんっ! なんでこのあたしがアンタの言うことなんか聞かなきゃいけないの?」
金髪のツインテールに、水属性なのが一目でわかる青を基調としたゴスロリ風の衣装はさすがSRだけあって細かいところまで丁寧に作り込まれている。
SRリーゼ。
CVがツンデレキャラで有名な人でどのソシャゲにもかならずいる典型的な幼めツンデレキャラだ。
美少女でツインテールでツンデレなんて、量産されすぎて逆に無個性になっているんじゃないかっていうキャラ。
ゲーム画面では拡大されて表示されるので分かりにくかったが、実際目の前にするとかなり小柄だった。
俺の胸よりさらに下に頭がある。
たしか設定では14歳だったはずだがこれはどう見ても小学生だ。
召喚の義が終わるとまた世界が歪み、暗転し、元いた草原へと戻ってきた。
ふよふよとアルボが近づいてくる。
「あの、例のやつはやったほうがいいですか?」
「例のやつって?」
「ほら『おめでとう! すごーい!』ってやつですよ」
あれか。
お決まりのセリフ。
初心者を気持ちよくさせるための世辞。
「いや、いいよ。SRリーゼ引いただけでそんな大げさに褒められても俺も真顔になるしかないし」
「助かります」
俺たちがごそごそやっているあいだ、リーゼは表情も体勢もそのままだった。まるでよくできたドールかなにかのように。
SRリーゼかあ……。
俺はつい顔をしかめてしまった。
※ツンデレ
説明不要のいまや定番となった性格設定。現代においてほぼ絶滅したとも言われるこの性格はソシャゲではほぼ100%の確率で登場する。黒髪ストレートか金髪(または赤系)のツインテールが多い。
※水属性
ソシャゲではキャラをたくさん引いてもらうためにキャラに属性がついている。属性はじゃんけんのように強弱関係があり、ゲームによって様々。ブルファンではかなり多くのゲームで採用されている5属性方式を採用しており、火・水・風・光・闇の5属性。火は風に強く、水は火に強く、風は水に強い。光と闇はお互いに弱点となる。この属性概念が浸透しすぎた結果、これ以外の属性概念にするとプレイヤーが馴染みにくくなってしまうらしい。テンプレからはずれるために頑張ってオリジナルの設定を考えると逆に誰からも理解されなくなるというのはネット小説家の考える設定のようである。
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