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第4話 雑魚キャラを引いちゃって
「で、これどうすりゃいいんだ?」
なぜか睨みつけてくるリーゼから目をそらしながらアルボに訊いた。
「一緒に連れ歩くならこのまま連れて行ってください。ボックスに入れておくならボクに言ってもらえれば異空間に収納しておくこともできますよ」
なるほど。
実は疑問だった倉庫キャラと呼ばれる使われないキャラは普段どうしているのかと思ったが、この世界ではアルボが異世界に収容という形を取っているのか。
収容される側はたまったものではないと思うけど。
さて、このSRリーゼ。
実はあまり強くない。
はっきり言ってしまえばハズレだ。
魔法攻撃を得意とするいわゆる攻撃役と言うやつなのだけど、攻撃役はすぐに弱くなる。
いや、正確には弱くなるわけじゃない。
周りが強くなってしまって、相対的に弱くなるということだ。
最強の敵だったピッコロが後半には全く戦闘員として機能しなくなったように。
いわゆるインフレ。
これはソシャゲの宿命と言ってもいい。
新しいキャラクターをガチャで引いてもらう――課金してもらうには既存のキャラよりも強い新キャラを出す必要がある。
そこでわかりやすく攻撃力が高いキャラを出すというのはどのソシャゲでも行われていることだ。
そこでインフレが生じる。
最初は数百のダメージだったものが数千、数万、果ては億を超えるダメージへと発展していく。
それに合わせて敵も強くなっていく。
ベジータ、フリーザ、セル、魔人ブウが現れたように。
プレイヤーは常に強いキャラクターを入手し続けなければならないのだ。
SRリーゼは3年前はそれなりに強かった。
だけど今となってはインフレの波に飲まれてしまっていた。
それに比べ、サポートキャラの寿命は比較的長い。
仙豆が最後の最後まで活躍したように、回復や補助と言った能力は長く使えることが多い。
俺はサポートキャラとして寿命が長い他のキャラが手に入るまでリセマラをしたかったのだけど、リセットの仕方がわからない。故にリセマラができない。
となればSRリーゼを使うしかなかった。
「連れて行くよ。あんま強くないけど最初はそれなりに使えるし。そもそも今手持ちのキャラはこいつしかいないわけだしな」
「それもそうですね。わかりました。じゃあ案内を続けてもいいですか?」
「おう、頼むわ」
「『じゃあ新しく手に入れた仲間をパーティーに編成してみよう――』」
アルボが作った声でチュートリアルの説明に戻った。
そう。
さっきからこちらの準備が整うまで襲ってくることもせず、律儀に待ってくれている雑魚モンスターと戦わないといけないのだ。
ちなみにこのモンスターはキャノンイーターといって一言で言えばでかいリスだ。
目がイっちまっているこのリスはなぜか両手で戦車の大砲の弾を抱えている。どんぐりのつもりなのかしらんが、攻撃方法はその弾で殴りつけてくるというもの。戦車の弾の意味は? と突っ込みたくなるネタキャラだ。
どこか愛嬌もあり、また、最初に現れる敵ということもあって人気もそれなりな愛されキャラでもある。
だが、実際目の前にすると……でかい。
大型犬くらいある、目がイっているリスがこちらを見てくるのは結構な恐怖だ。
画面で見た時は『なんだこいつだっせえな』なんて小馬鹿にしていたのだけど。
「『――じゃあまずはAttackをタップしてみて』」
タップと言われても画面などない。
とりあえずリーゼに攻撃の指示を出せばいいのだろうか。
俺は改めてリーゼに向き直ると
「じゃあリーゼ。これからよろしくな」
と声をかけた。
「あたしはリーゼ。ふんっ! なんでこのあたしがアンタの言うことなんか聞かなきゃいけないの?」
リーゼは登場時と同じセリフを吐いた。
両手を腰に当て、睨みつけてくるお得意のポーズのまま。
なるほど、そうきたか。
「まさか、こいつこれしかしゃべれないのか?」
アルボに聞く。
「親愛度を上げれば喋るセリフも増えますし、サイドストーリーも開放されますよ」
「いや、そういうことじゃなく、どうやってこいつとこれからこの世界でやっていけばいいの。これじゃコミュニケーションとれないし。アルボみたいに自分の意志で喋ってくれたりしないのか?」
「それはボクにもわかりません。そもそもなぜボクが今こうやって自分の意志で喋れているのかも謎です」
「マジか」
俺はアルボのときのことを思い出す。
こいつも最初は俺が話しかけてもゲーム内の通りの会話しかできなかった。
2,3発どついてやると反応するようになったが。
「じゃああれか。こいつも何発か殴ったら自我を持つとか?」
「いやあ、どうなんでしょう……結構痛かったですよあれ」
さっきから一切ポーズを崩さないままのリーゼに近づいてみる。
俺が間近に迫ってもリーゼは顔色一つ崩さない。
アルボのときのように殴ろうかとも思ったがなんせ見た目が美少女小学生だ。
殴るというのもくすぐるというのも気が引ける。
そんなことをして、仮にうまくいったとしても、あとから変態不審者と言われても文句は言えない。下手をすればこの世界の警察に捕まってしまうかもしれない。
どうしたものかと考えあぐねた挙げ句、とりあえずリーゼの頭がちょうど目の前にあったので、頭の上に手を置いてみた。
※ソシャゲのインフレ
経済用語のインフレとは別。次々に強いキャラクターを実装してしまった結果、ゲーム内の数値がどんどんと高くなっていくことをインフレと呼ぶ。数百ダメージだったものが数億ダメージになることはザラ。中には兆を越えて京、垓と普段使わないようなダメージにまでインフレするゲームもある。逆に開き直ってインフレし続けて阿僧祇などという概念でしか使わないような単位まで到達したゲームもあるとか。
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