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第4.5話 それはテンプレツンデレキャラだったけど
「ちょっと! 気安くさわんないでよ!」
リーゼの表情が動いた。
急になめらかに動いて俺の腕を払い除けた。
瞳がくるくると動きだす。
「さっきから言ってるでしょ! あんたの言うことなんか聞かないって! ……あれ?」
リーゼは自分の口を上品に抑えながら、驚いた表情。
「アルボ、これってもしかして」
「そうですね、あなたが触れることがトリガーになっているみたいですね」
俺がこの世界のキャラクターにふれることで、この世界のキャラクターは自分の意志で喋ることができるようになる、ということかもしれない。
まだアルボとリーゼの二人だけなので確実にとは言えないんだけど。
「とにかく、リーゼ。お前は俺の最初の仲間だ。よろしくな」
と俺が右手を差し出したのだが、リーゼはその手をじっと見たまま掴んではくれなかった。
「なんだ、本気で俺の言うことは聞かないとかそういう感じ?」
口ではそういうが、ゲーム中プレイヤーの指示に従わないということはないはずなんだが……。
「アンタ……あたしのことさっきなんて言ったか覚えてないの?」
リーゼは俺をにらみ上げた。
もしかしなくても怒ってる?
「なんか言ったっけ?」
「はあ!? アンタさっきあたしのことを『こいつ』呼ばわりした挙げ句『使えない』だの『それなり』だのって……!」
やばい。たしかに言ったかもしれない。
あれ、聞かれていたのか。
事実だが、本当のことだが、だからといって本人の目の前で言っていいセリフではなかった。
俺はまだ自分がゲームの外にいる感覚でいたのだ。
「あんな事言われてまでアンタについていく理由なんてないわ。あんなに嫌そうな顔までされたのなんて生まれて初めてよ……」
リーゼは目に涙をいっぱいに浮かべていた。
まずい。
いくら本当にリーゼがポンコツ雑魚ハズレキャラとであることが事実とはいっても、この先まともなアタッカーをガチャでゲットするまではリーゼに頼るしかないのもまた事実。
ここはどうにかリーゼに機嫌を直してもらうしかない。
そうしなければチュートリアルすら突破できないのだ。
思い出せ。
考えるんだ。
リーゼは始めたての頃はよく使っていた。
なんせ俺は初期勢だからな。
親愛度もマックスまで上げたし、関連ストーリーは全てやったはずだ。
リーゼはどんなキャラだったか。
確かキャラ詳細に簡単なプロフィールが書いてあったはずだ。
リーゼは優秀な兄にコンプレックスを持つ14歳の魔法を得意とする名家の少女。
出身国は童話の国『ラムネ王国』。
性格はザ・ツンデレ。
嫌いなものはおばけと辛いもの。
好きなものは兄にもらったくまのぬいぐるみで密かに毎晩抱いて寝ている。
うーん、しかし、こうやって思い出してみるとなんてテンプレなんだこいつは。
キャラ設定した運営スタッフはもう少し考えられなかったのか。
そうか。
テンプレか。
「リーゼ。さっきのことは謝る。失礼なことを言って済まなかった!」
俺は深々とリーゼに頭を下げた。
「なによ急に。そんなちょっと謝ったくらいで許してもらえると思わないでよね!」
「そうだよな。本当に済まなかった。初対面であんなことを言われて、あんな失礼な態度を取られて、許せない気持はよく分かる。だが、今俺達はモンスターに襲われているところなんだ。君が力を貸してくれなかったら何の力もない俺はここで死ぬことになるだろう。頼む。君の力を貸してくれないか? 君の力ならあんなモンスターなんて軽く一捻りだろう?」
「う。今更そんなこと言ったって……」
リーゼがたじろいだ。
ダメ押しだ。
「頼む! リーゼ! 君しかいないんだ!」
「そ、そこまで言うなら……」
よし。
ちょろい。
アルボは俺の様子をみて軽く目を開いている。
どうだアルボ。俺のトーク力は。
この場合はトークというよりは知識だ。
リーゼはストレートに頼まれたりすると断れない『いい子』なのだ。
そのせいで敵に騙されたりするエピソードがあるのを俺は過去のイベントストーリーで知っていた。
下手に言い訳するより素直にお願いするのがリーゼには一番効果的なのだ。
「仕方ないわね。協力してあげるわ! でもいい? 勘違いしないでよね。アンタのこと許したわけじゃいんだからね!」
大御所声優の放つテンプレツンデレゼリフが非常に耳に心地よい。
リーゼの『~なわけじゃないんだから』は全て反対の意味である。
つまり、俺は許されたのだ。
「ありがとうリーゼ! 頼むぞ!」
「ふん。任せなさい!」
そういってリーゼは腰につけていた杖を手にとり、モンスターに向けて構えた。
アルボがふよふよと俺のそばに来て耳打ちする。
「意外と演技派ですね」
「うるせ」
こうして、ようやくチュートリアル最初のバトルに挑むことになった。
随分と待たせてしまったなモンスターくん。
※ボックス・倉庫
ゲームで引いたキャラクターなどを保管する画面。ドラクエで言えばルイーダの酒場のようなもの。ゲームを進めるほどに仲間は増えていくのでその収容場所については大抵の場合は都合が悪いのでちゃんとした説明はない。
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