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プロローグ
それは俺にとって死よりも恐ろしい言葉だった。
巨大ネット掲示板にて『ぶるふぁん』の情報を集めたり、名前も顔も知らないプレイヤーたちとの雑談という名の煽り合いやくだらない最強キャラ論議に興じていたときのことだった。
俺の目に呪いの六文字が映った。
『サービス終了』
このワードを見た瞬間、全身が痺れ、ジェットコースターに乗ったときのような、心臓を鷲掴みにされたような感覚を感じた。一瞬視界が歪んだような気さえした。
だが、ここは公園の落書きとも呼ばれるただの情報掲示板だ。
すぐに公式SNSをチェックしたがサービス終了などはアナウンスされていたなかった。この情報がデマであることを確認した俺は安堵したが、まだ心臓が高鳴っていた。
「驚かせるんじゃねえよ、くそ」
再び掲示板に戻った俺は、一瞬とは言え恐怖を味わ わせてくれやがった腹いせに『風説の流布乙。震えて眠れ犯罪者』と書き込んでやった。
こんなことは初めてのことではない。
サービスも3年目に入ったこのゲームはお世辞にも最盛期ほど盛り上がっているわけもなく、時折こんな書き込みも目にすることはある。
だが、今回はなにか雰囲気が違った。
『どうせ俺はもうこの会社も辞めるし今海外にいるし全部暴露するわ』
書き込みの主は俺の反撃にも動じずにさらに書き込みを続けてくる。
『実を言うとブルファンはもうだめです。突然こんな事言ってごめんね』
ふざけたやつだ。
こんなことをかけば風説の流布だけではすまない。内部情報をリークしたとなればなにかの罪に問われるだろうし、損害賠償ってやつだって大きなものになるだろう。知らんけど。
だが、こいつの書き込みは止まらなかった。
『でも本当です。3か月後に最後のイベントが開催されます。それが終わりの合図です。ぶっ壊れキャラガチャで集金してくるから気をつけて。それが終わったら少しだけ間をおいてサービス終了が発表されます』
有名なセリフを改変して書き込んでくるあたり、冗談にも聞こえる。
だが、こいつは他にも内部リークであることを証明するかのような書き込みを数回してみせた。
「嘘だろ。嘘だよな。だってまだ売上も好調だって公式生放送で言ってたじゃないか……ってあれ。前回の公式生放送っていつだっけ……」
また心臓が縮む。
鼓動が早くなる。
そんなはずないそんなはずない。と俺は根拠のない反論をただただ書き込む。
手が震えてきた。
なんだかめまいがする。
頭に血が上りすぎたか?
なんだか呼吸がうまくいかない。酸素が足りない。
うまく文字が打てない、よく画面が見えない。
あれ、頭もよく回らない。
なんだこれ。
俺の視界は長いゲームのローディング画面のように真っ暗になった。
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