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「大丈夫だよ。心配しないで。双方の両親の陰謀でこんなことにはなってしまったけれども、元々、僕もゾフィーも兄妹みたいな感情しか持っていなかった。それとも、ゾフィーから子供を引き離して彼女だけ修道院送りにすれば残酷じゃないってこと?」
「そんなことあるわけないじゃないですか!本当に何もお気づきでないのですね!」
「ねぇ、アンネ、僕は君とこんな口論をするためにここに来てもらったわけじゃないんだ」
「では何をされたかったのですか?」
「お詫びと僕たちのこれからのことを話したかった」
そう言うと、ルドルフはアンネを抱きしめ、唇にキスをして舌を絡めた。唇を離すと銀糸が2人の口の間に伸び、もっともっと、という甘美な誘惑が2人の間に流れた。
ルドルフの自制心はほぼ崩壊し、婚約者への罪悪感や義務感はどうでもよくなってきた。今まではゾフィーとの婚約を破棄してアンネと結婚するまでは、2人きりのときにせいぜいアンネの手を握ったり、額や頬にキスをしたりするだけにしておくつもりだったし、そうしていた。でも不本意でもゾフィーと子供ができるまでのことをしてしまった今となっては、ルドルフにはそんな自制は意味をなさなかった。
だが、アンネはゾフィーと公爵家への罪悪感や忠誠心と甘美な誘惑の葛藤に迷いながらも堕落から逃れた。
「何をなさるんですか!」
そう叫んでアンネはルドルフを突き飛ばした。ルドルフの瞳は悲しみと驚きで揺れていた。
「どうして僕を拒否するの?」
「ルドルフ様はゾフィー様と結婚されるのです!それに公爵閣下から別のお勤め先を私にご紹介いただけると話がありました。嫁ぎ先も探していただけることになっています。その話を受けることにします」
「そ、そんな!アンネ、考え直して!」
「いえ、こうすることがルドルフ様の幸せにつながるのです。私ももうこれ以上公爵家にお勤めするのは針の筵で辛いです」
「貴女なしでは僕は幸せになれない!貴女も僕なしでは幸せになれないはずだ!」
「それが他の方の不幸の上に成り立つ幸せでも?私には耐えられません!」
そう言ってアンネは振り返らずにルドルフの部屋を飛び出していった。だからルドルフの瞳が情欲と愛憎の不気味な光で揺れていたことに気づかなかった。
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