8.最後の思い出旅行

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8.最後の思い出旅行

あの深夜の密会後、ルドルフは何度もアンネに翻意を迫ったが、アンネは頑なにルドルフとの将来を拒否し、ルドルフももう諦めたようだった。 「そうか・・・そうだね・・・それじゃあ、せめて最後に君との思い出を作らせてほしい。ヴォルフガングの領地の都に出かけよう。彼の領都は王都の次に栄えていると評判だよ。君も行ったことがないだろう?」 王都で生まれ育ったアンネはディートリヒシュタイン領に行ったことどころか王都から出たことすらなかった。アンネが最後の思い出旅行を承諾したのは、ルドルフの懇願だけではなく、まだ見たことのない地への憧れもあったのだろう。だが、アンネはその決意がどんな結果をもたらすか知らなかった。 ゾフィーとの結婚が迫っていたので、旅行は急だったが翌週決行することになった。その前に、アンネは『新しい勤め先に行く前に実家に帰って少し羽休みをする』と言い残してコーブルク公爵家を辞した。ルドルフはゾフィーとの結婚を受け入れる前に最後の独身旅行としてディートリヒシュタイン領に旅をすると両親に話したようだった。 ディートリヒシュタイン伯爵家は商業で成功した裕福な家で、ヴォルフガングの父である当主はしょっちゅう出張に出かけており、母は出張から帰宅する夫を待って普段から王都のタウンハウスに住んでいた。ヴォルフガングはたいてい領地に滞在しており、領地経営を任せられていた。 ルドルフとアンネが来ることはヴォルフガングの両親には内緒であったが、2人とも領地に来る予定はないし、使用人には口止めしてあるので、ばれないはずであった。
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