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9.束の間のデート
翌日、アンネはいつも奉仕する側だったのに、身体を磨かれて身支度される側になり、戸惑っていた。ディートリヒシュタイン家のカントリーハウスにはなぜかアンネにぴったりと合うドレスが数着用意されており、その中から彼女の赤毛に映えてルドルフの瞳の色に近い深緑色のドレスを選び、用意されていたルビーのネックレスとイヤリングをつけた。
ルドルフはアンネの着飾った姿に感動し、綺麗だと連呼した。アンネの癖が強くて赤い剛毛は爆発しやすくてまとまりにくく、ちんまりとした目鼻立ちで少し日に焼けた顔には化粧でもかくしきれないそばかすが広がっていて、正直に言えばアンネの容姿は美しいとは言えなかった。彼女はいくら着飾ったところで貴族の女性には到底見えなかった。それどころか、艶のある金髪や海のような青い目、雪のように白い肌を持つルドルフの婚約者ゾフィーのほうが公平な目でみれば美しかったし、金髪碧眼の貴公子然としたルドルフにお似合いに見えた。だが、ルドルフはアンネの優しい心根に惹かれていたから、恋は盲目とはよく言ったもので、アンネが最高に美しく見えた。そうでなくともアンネには人の良さが表情に出た愛嬌があり、周囲の人をその人柄で魅了していた。
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